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『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』
『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』

 現実空間とは別の「もう一つの世界」、メタバース。「単なるバズワード」と、その可能性に目を背けてしまうのは得策ではない。新たな世界でどんなビジネスチャンスが生まれるのか。本連載では、新刊『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』(日経BP)より、来たるべくメタバース時代に向けた多角的な視座を与えてくれる6人のキーパーソンインタビューをお届けする。(日経クロストレンド編集部)

 メタバースでの商品販売「メタコマース」にいち早く取り組むセレクトショップ大手のビームス(東京・渋谷)。世界最大級のVR(仮想現実)イベント「バーチャルマーケット」への参加はすでに3回を数え、店舗スタッフがアバターとなって“生接客”するなど、知見をためている。メタバース時代をどう勝ち残ろうとしているのか。(聞き手は、『メタバース未来戦略』共著者の石村尚也)

池内 光(Hikaru Ikeuchi)氏
ビームス取締役
ビームスクリエイティブ代表取締役社長
池内 光(Hikaru Ikeuchi)氏 1971年生まれ。大学卒業後、電通に入社。23年間の在籍期間、キャリアの前半は営業職、後半はクリエイティブ部署においてプロジェクトをつかさどるプロデューサーとして、大小さまざまな企画を手掛けた。2018年4月、ビームスへ入社し、社長室室長に。20年5月、ビームスクリエイティブ代表取締役社長に就任(写真/高山透)

Metaのホライゾンワールドの手数料は高い? 安い?

コミュニケーションはメタバースにおいても必須の要素ですし、リアルでのノウハウが生かせるのは強みですね。一方で、メタバースにおけるMD(マーチャンダイジング)について、「ものをどう売っていくか」「売れるものと売れないものの見極め」に関しては何かつかめていますか。

池内 光氏(以下、池内) 私たちの今までの感覚で「これは売れる」と思ったものが売れなかったり、逆に「これはよく分からないな」と思ったものが予想以上に売れたりと、メタバースではまだ試行錯誤が続いている状態です。

 例えば、あるキャラクターが好きな人でも、メタバースでは「そのキャラクターになりたいからアバター自体は欲しいけど、自分のアバターが着るためのキャラクターTシャツはいらない」といったこともあります。とはいえ、バーチャルマーケットのコアユーザー層に対しては、人気のキャラクターコラボ商品などで「狙って当てる」ことはできたと思っています。

 今後、メタバースではまだはやっていない、よりリアルのトレンドに近いストリートカルチャー的なものを届けていくのか、それともメタバースだからこそ表現可能な斬新なデジタルファッションを新たに提案すべきなのか。どちらが正解なのか、あるいは両者をどれくらいの比率でやるべきなのかを、さまざまな角度から検討しているところです。

 後者のデジタルファッションに関して言うと、メタバースにはすでにクリエーターが多数存在しているので、そういう方々と一緒に何か作りたいですね。ビームスもメタバースではまだ新参者ですし、ある意味で彼ら彼女らに認められるような取り組みができると、また新たな可能性が見えるのではないかと。

 一方で、そこだけを目指していると限られたコミュニティーにしか届かず、ビジネスの幅も狭まってしまうでしょう。私たちが知っているファッション業界の常識がそのまま通用しない部分も、「今はそれを欲しがるユーザーがいないだけ」の可能性もあります。これからメタバースがより一般化していく中で、ユーザー属性やその割合も変化していくと思いますし、「今この瞬間に売れる」ことだけに固執しすぎるのはリスクが高いと考えています。

バーチャルマーケット5でのビームスのバーチャル店舗の様子。まさかのロケットが鎮座する(写真/ビームス)
バーチャルマーケット5でのビームスのバーチャル店舗の様子。まさかのロケットが鎮座する(写真/ビームス)
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いわゆるメタバースが一般に定着するのに、あとどれくらいの時間がかかると考えていますか。

池内 最短でも5年はかかる、というのが個人的な見立てです。私たちはプラットフォーマーになるつもりはなく、コンテンツ供給側。その立場からすると、やはりある程度の規模を持ったプラットフォーマーが出てきてくれないと、ビジネスにはなりにくいと考えています。乱立するプラットフォームに、その都度出店するわけにもいかないので。

現状の取り組みだけでも、ビームスのブランディングやPRの面では非常に貢献していると思いますが、次に目指すのはやはり販売でしょうか。

池内 正直なところ、単純に販売数や売り上げだけを指標にしてしまうと、現状では「全く割に合わない」という結論になってしまいます。短期的に販売に特化するのであれば、従来の電子商取引(EC)サイトで事足りるわけで、現状のメタバースでは販売よりも販促、あとはコミュニティー形成に期待しています。

 これはリアルでもそうですが、市場自体が細分化・小粒化している中で、ビームスがさまざまなコミュニティーの中心的存在になったり、個々のコミュニティーの特性を把握したうえで深くつながったりしていく必要があります。

 理想を言えば、HIKKYが「パラリアル」(パラレルワールド:並行世界と、リアル:現実世界を組み合わせた造語)と呼んでいるような世界が望ましい。メタバースの中で商品紹介をし、そこでアバターやデジタルファッションを売り買いできつつ、リアル商品としても話題になって現実世界で売れるという構造です。とはいえ、メタバースの中だけで売れる、いわゆるデジタルコンテンツでもヒット作品を生み出したいと思っているので、そちらも並行してやっていきます。

バーチャルマーケット以外では、例えば「The Sandbox(ザ・サンドボックス)」などではメタバース内の“土地”を販売しているケースもありますが、出店戦略としてバーチャル空間の“一等地”に興味はありますか。

池内 もちろん興味はあるのですが、正直高いですよね(笑)。バーチャル世界でデジタルコンテンツを売って稼ぐことに特化するのであれば、当然ユーザーが多くて立地がよく、高い収益性を見込める“立地”が必要になります。

 ただ、現状、私たちは売り上げの側面だけではなく、バーチャルとリアルの接点をつくる、その可能性を広げるトライアルをしているところ。すでに高い値段がついていて一等地はもう他のブランドに押さえられているとなると、参入は難しいでしょうね。