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メタバースの開発ではバーチャル空間の構築だけではなく、通信、アバターやAI(人工知能)、さらにはWeb3と、さまざまな技術を結集する必要があります。その点で日本企業の「メタバース構築力」はどれくらいあるのでしょうか。

中馬 いわゆるIT革命以降、日本にはGAFAに該当するプレーヤーが出てきていないのが残念ですね。日本だと、いまだにトヨタ自動車とソニーグループが代表格ですが、米国ではゼネラル・モーターズやゼネラル・エレクトリックが経済を引っ張る存在ではもはやないですよね。

 その点、日本の通信会社は、実はGAFAに近いポジションにいると考えています。iモード以降、インターネットビジネス、コンテンツ制作、eコマース、金融と事業を広げてきており、コングロマリット企業になっています。このような通信会社のビジネスモデルは、日本特有です。

 KDDIがどこよりも積極的にスタートアップ投資を続けているのは、GAFAを常にベンチマークにしているから。M&Aも積極的に行っていますし、いい意味での支援者となり、メタバースのエコシステムをつくっていければと思っています。

グローバルな視点で見ると、メタバースに対してインフラや半導体レベルから関わっている企業も多数あります。一方、日本では表層のコンテンツレイヤー、エンドユーザーに触れる部分をつくる立場に徹しがちな気がしています。

中馬 同感です。スマホの登場以降、日本の企業はプラットフォームについて諦めすぎたと思います。気がついたらサービスのバックエンドはすべてAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)で、フロント側は手掛けているけどプラットフォームは借りている状態になっています。Web3に関しても、インフラから携わっている日本の企業はいません。

 ですので、我々も国への提言などで、基礎的なプラットフォームに対して力を入れるべきだと伝えています。極論すると、海外の有力企業をM&Aすることも含めて、一度、国が先導してやってみたほうがいいのではと感じています。

 例えば、ゲームの開発エンジンでは、すでにUnreal Engine(アンリアルエンジン)とUnity(ユニティー)でほぼ独占されてしまっています。しかし、独自のプラットフォームを構築している人たちも当然いるわけで、我々はそういう人たちを応援したいと思っています。

 欧州で一般データ保護規則(GDPR)が18年に施行されて以降、デカップリング(分断)の問題が改めて意識されるようになったり、デジタルアセットやデータベースを日本国内に置こうという話が出てきたり、世の中の流れとしても国産プラットフォームには挑戦しやすい状況です。今度こそ、サービスレイヤーだけではなく、プラットフォームと両方をやらなければいけないと思います。

 また、もし本当にメタバース革命が起き、人々がバーチャル空間で暮らすようになったとき、プラットフォームも含めたそれぞれの産業はメタバースとどう関わっていくのか、皆が自分ごととして考えるタイミングに来ているのではないでしょうか。メタバースは「バーチャル空間に新しいインターネットがもう1回生まれる」ということ。すべてがうまくいくと、関わりのない産業はほぼなくなるはずです。

 今後は、現状スマホを見ている時間がすべてメタバースで過ごす時間に置き換わっていることもあり得ると考えています。リアルに使う時間が減ってリアルでの消費が少なくなれば、逆にメタバースでの消費は増えるでしょう。外出頻度が減れば洋服を買わなくなり、そのぶんアバターにお金をかけるようになる。メタバースへの移行が進んだものから順にリアルでの消費が減っていくのではと思います。

 そのとき、単純に今ある事業をメタバースに移植するという考え方だと、減収を補うことはできてもドラマチックな成長にはつながりません。「メタバースファースト」で一度考え直してみるのは、すべての産業、すべての人に問いかけるべきテーマだと思います。

「povo2.0」は基本料0円で、「通話トッピング」や「データトッピング」「コンテンツトッピング」などを必要に応じて追加し、利用する契約プラン。日常生活で利用するさまざまな店舗やサービスの利用でデータがたまる「#ギガ活」が特徴的(写真/KDDI)
「povo2.0」は基本料0円で、「通話トッピング」や「データトッピング」「コンテンツトッピング」などを必要に応じて追加し、利用する契約プラン。日常生活で利用するさまざまな店舗やサービスの利用でデータがたまる「#ギガ活」が特徴的(写真/KDDI)
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メタバースの実現に合わせて、KDDIも企業としての変革ビジョンがあるのでしょうか。

中馬 KDDIではオンライン専用の低価格携帯プラン「povo(ポヴォ)」も展開していますが、その中にはユーザーがコンビニやカフェなどのパートナー企業で決められた金額以上の購入をすると、ポヴォで使えるデータ通信容量であるギガがもらえる「#ギガ活」があります。

 これは、見方によってはトークンエコノミーのようなものなんですね。従来だとポイントサービスとして提供されてきたものがギガに置き換われば、それは単なるデータチャージではなく、「インターネットのアクセストークン」になるのではと。そのアクセストークンがギガとの交換だけではなく、ギフティング(投げ銭)的な使い方もできるようになれば、インターネット経済の中で流通する貨幣の役割を果たせます。

 通信会社にとってギガは無限の資産ではないですが、フルに使いこなし切れていない面があるのも事実。大容量の通信が必要となるメタバース時代に入ると、ギガの価値はより高まるでしょう。現在は法律の問題もあって整理は難しいですが、私自身が考えるKDDIの未来は単なる通信会社ではなく、アクセストークンとしてのギガを活用したエコシステムを形成しているイメージです。

(『日経クロストレンド』2022年6月16日掲載記事 KDDI「#ギガ活」の仰天構想 メタバース経済圏の切り札になる? を再構成、固有名詞や肩書などは掲載当時のままで現在は変わっている可能性があります)

次回の『メタバース未来戦略』インタビュー

「かじった人」「賢い人」ほど間違える!
メタバースの核心とビジネスを学べる
『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』
『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』
著者●久保田瞬、石村尚也(著)/定価●1870円(10%税込み)/発行●日経BP/判型●A5判304ページ/発行日●2022年06月20日/ISBN 978-4-296-11242-5

 2021年10月、旧フェイスブックが社名をMeta Platforms(メタプラットフォームズ)に変更し、メタバース関連へ年間100億ドル(約1兆1400億円)もの投資を行うことを公言したことで号砲が鳴った「メタバース狂騒曲」。NFT(非代替性トークン)やWeb3(ウェブスリー)、デジタルツインなど、関連するバズワードが入り乱れる中、その「本質」と「真価」を見通すのは容易ではありません。

 結局、メタバースとは何なのか。仮想世界ではどのようなビジネスチャンスが生まれるのか。今からどうやって取り組んでいけばいいのでしょうか――。

 本書は、メタバースの核心とビジネスの始め方を一冊で学べる最新かつ決定版となるビジネス書です。今からでも決して遅くはありません。本書は、メタバースの普及、定着が見込まれる2030年代に向け、思考実験と新たなチャレンジをするすべてのビジネスパーソン、クリエーターを応援します。

『Web3新世紀 デジタル経済圏の新たなフロンティア』
テックジャイアント不在の未来を描く(7月21日発売)
『Web3新世紀 デジタル経済圏の新たなフロンティア』
『Web3新世紀 デジタル経済圏の新たなフロンティア』
著者●絢斗優、藤本真衣(著)、馬渕邦美(著/監修)/定価●2420円(10%税込み)/発行●日経BP/判型●A5判248ページ/発行日●2022年7月26日/ISBN 978-4-296-11224-1

 「Web3とは何か?これから何が起きるのか?」。このような疑問を抱いている皆さんに一定の解を示す書籍です。Web3は現在進行形であり、変化のスピードが速いので、未来を見通すのはなかなか難しい。そこで本書はトップランナーたちのインタビューを通して、「これから何が起きるのか?」を読み解いています。Web3の巨大投資会社Animoca Brandsの創業者、Yield Guild Games (YGG)の共同設立者、メタバースDecentralandの創業者といった現在、Web3のムーブメントの中心にいる人たちに話を聞いています。

 Web3は、現在のWeb2.0の延長上にはなく、別の世界を目指しています。「絵に描いた餅」のようにいう懐疑派がいるのも当然で、Web3のトップランナーが目指す世界は、既存の尺度では測りづらく、リスクがあるのも確かです。一方でWeb2.0の反省を踏まえて世界を良くしていきたいとの意図を強く感じます。その範囲はあらゆる領域に及び、言うなれば「社会の再定義」をしようとしています。

 Web3が目指す世界を、ぜひ自分の目で確かめてください。

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