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 書籍『誰も教えてくれなかったアジャイル開発』(日経BP)では、ウオーターフォール型開発が主流の「日本企業」で試行錯誤しながらアジャイル開発を成功に導いてきたコンサルタントたちが、自らの経験を体系化している。本書から抜粋し、アジャイル開発のポイントを紹介する「実践編」から、前回に続いてポイント(3)を掲載する。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)

ポイント(3) 目的と優先順位を常に意識する

 ポイントの3つ目は、インセプションデッキの10個の設問・課題のうち最初に取り組む、全体像を捉える設問・課題である「我々はなぜここにいるのか」に関するものだ。プロジェクト初期にプロジェクト関係者全員が集まり、このプロジェクトの目的や方向性を話し合い、合意するステップである。

図 インセプションデッキの10個の設問と課題
図 インセプションデッキの10個の設問と課題
(出所:『アジャイルサムライ―達人開発者への道』〔Jonathan Rasmusson著、西村直人・角谷信太郎監訳、近藤修平・角掛拓未訳、オーム社、2011年〕の46ページを参考にシグマクシス作成)
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 よくある進め方は、会議室に全員で集まり、付箋に各自の思いや考えを書き込んでホワイトボードに貼り出し、それを基に各人の思いを聞きながら話し合っていくというものだ。人数が多い場合は5~6人単位でチームを分けて、チームごとに進めてもらうとよい。リモートワーク下においては、デジタルの付箋を全員で共有できるツールがあるので活用するのも手である。

付箋で考えを洗い出す

 付箋は思いつく限り何枚でも書いて構わない。その内容に正解・不正解もない。自分の思いや考えを全て出し切ってもらうことが大切だ。

 数多く出された付箋を基に「会社がこのプロジェクトに投資する目的は何か」を話し合い、最終的にプロジェクトの根幹に関わる最も大切な目的を1つ選び、関係者全員で合意する。我々が参画したプロジェクトでは例えば「営業担当者の業務負荷軽減による新規契約獲得件数のアップ」や「顧客情報の蓄積、活用による提供サービスの高度化と顧客満足度の向上」といった目的があった。

 最も大切な目的を1つに絞り込めないこともあるだろう。その場合、評価する項目を設けてスコアリングし、比較するとよい。その際の項目は「実現したいことへのフィット度合い」「実現できた際の効果」「業務へのインパクト」「難易度」など。スコアは「大=3ポイント、中=2ポイント、小=1ポイント」といった粒度で構わない。

 併せて、「営業利益の増加率や目標額」「コストの削減率や目標額」など、定量化できる目的は値を明確にしておくと、目的の優先順位を決める際に判断材料となりやすい。例えば「売り上げアップ 対 コスト削減」の場合、「20億円の売り上げアップ 対 2億円のコスト削減」と「2億円の売り上げアップ 対 20億円のコスト削減」では、定量的なインパクトが異なり優先順位の付け方が変わってくる。