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 書籍『誰も教えてくれなかったアジャイル開発』(日経BP)では、ウオーターフォール型開発が主流の「日本企業」で試行錯誤しながらアジャイル開発を成功に導いてきたコンサルタントたちが、自ら経験を体系化している。本書から抜粋し、アジャイル開発のポイントを紹介する「実践編」から、“抵抗勢力”への対策について解説する。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)

ポイント(6) ステークホルダーを見落とさない

 ポイントの6つ目は、インセプションデッキの5つ目の設問・課題「『ご近所さん』を探せ」に関するものだ。

インセプションデッキの10個の設問と課題
インセプションデッキの10個の設問と課題
(出所:『アジャイルサムライ―達人開発者への道』〔Jonathan Rasmusson著、西村直人・角谷信太郎監訳、近藤修平・角掛拓未訳、オーム社、2011年〕の46ページを参考にシグマクシス作成)

 ここではプロジェクト関係者、とりわけステークホルダー「全員」をリストにまとめて可視化する。プロジェクト開始時に直接プロジェクトに参加する人たちの体制図はつくるものの、間接的に影響を与える可能性のある人たちについては各自の頭の中にあるだけで、積極的に洗い出したり可視化したりはしないプロジェクトが多い。

 ステークホルダーの可視化が不十分だったプロジェクトで起こったトラブルを紹介しよう。営業活動を可視化し、業務効率向上と働き方改革を支援することを目的とした新システム構築プロジェクトにおいて、初期段階でのステークホルダーには業務ユーザーとIT部門だけが体制図に記載されていた。体制図に従って開発チームは業務要件をヒアリングする際、業務ユーザーへのヒアリングを済ませた。

 だが一方で別のプロジェクトが進んでいた。営業本部長の命を受けた外部の業務コンサルタントが働き方改革に向けた業務改善方針を検討しており、新システム構築プロジェクトで洗い出したユーザー要件とは異なる方向で、業務改善の方針を整理していたのだ。

ステークホルダーの可視化が不十分だと手戻りに

 新システム構築プロジェクトからはこのコンサルタントの動きが全く見えていなかった。実はステークホルダーの1人はコンサルタントの存在と活動を知っていたが、コンサルタントが新システム構築プロジェクトに直接参加しているわけではないので情報を共有していなかった。

 最終的には、別プロジェクトの業務改善方針に合わせるために、新システム構築プロジェクトでユーザー要件のヒアリングと検討をやり直すこととなり、不要な時間とコストが生じた。間接的にでも影響を与える可能性のあるステークホルダーを前もって洗い出し、可視化できていたら、このような事態は防げていたといえる。

 こうした失敗を防ぐにはどうすればよいのか。近道はなく、プロジェクト関係者が各自、プロジェクトの目的や特徴、周りの動きなどを考慮し、影響のありそうな人物や組織を積極的に洗い出して共有するしかない。当然プロジェクト関係者だけでは見えない、分からない部分もあるが、例えば役員会などでプロジェクトの企画を説明する際、プロジェクトに関係ありそうな人や組織、活動などを出席している担当役員に聞いて回り、幅広く探るのも有効な手段だ。