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 いまだその全貌が見えない「Web3」。本連載では書籍『Web3新世紀 デジタル経済圏の新たなフロンティア』(2022年7月、日経BP発行)を基に、Web3を正しく理解するために必要な情報を整理してお届けします。今回はWeb3が社会に与える影響についてまとめます。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)

 Web3に関してさまざまな意見があるのは事実ですが、私は懐疑的な意見や批判的な意見が出るのは悪いことだと感じていません。なぜなら、社会が変化する際、そこには必ず摩擦が生じますし、何より、自分なりに調べて自分の意見を持ったからこそ、その人なりの“賛成”や“反対”の意見が生まれると思うからです。Web3に関してさまざまな意見が出てくるのは、それだけWeb3の文脈で社会が急速に変わり、価値観が変化しつつあることの証左だと思います。一番恐ろしいのは、無関心で自分の意見がなく、ただ流されるだけの存在になることです。

多くの人々の働き方や生き方を変えるWeb3

 Web3による社会変化の中で、私は「本来個人に属するべき権利を取り戻す」という民主的な働きかけを推進すべきだと思っています。この意図を説明する前に、私のバックグラウンドを少しお話しします。

 私は2011年に初めてビットコインに出合い、ビットコインが成し遂げるであろう、お金の民主化・金融包摂の文脈に魅了されてブロックチェーン業界に入りました。実際に手掛けたのは、ビットコイン寄付プラットフォーム「KIZUNA」の立ち上げです。それは現在、ブロックチェーンを活用した寄付全般に携わるプロジェクトをサポートする「KIZUNA Hub」となり、さまざまな社会貢献型プロジェクトのブロックチェーン活用を支援しています。その他、これまで日本円にして17億円以上の暗号資産による寄付の実績を誇る「Binance Charity Foundation」のアンバサダーとして取り組んできました。また、クリプトアートのパイオニアとして知られる著名アーティストとコラボし、NFTチャリティーなども実施してきました。

 暗号資産による寄付では、国際送金のスムーズさや透明性というメリットを生かし、一定の成果を挙げることができました。ただ、黎明(れいめい)期であったため、暗号資産取引所の口座開設のために銀行口座が必要という皮肉めいた矛盾がありました。Web3が浸透してきたことで、直接暗号資産を受け取れるようになったのです。

 Web3は、多くの社会的意義のある活動に新しい可能性をもたらすと確信しています。例えば、あるNPOが実施し、私もお手伝いさせていただいている「D-SHiPS JOURNEY」というプロジェクトがあります。特別支援学校や入院中の子供たちと一緒に3DCGのアバターを使ったメタバース空間を企画・制作し、完成したメタバースの体験を全国の子どもたちに届ける活動です。ポイントは、NFTの販売を通じて得た収益を用いていることです。メタバース空間を楽しむだけであれば、企業が運営する従来のWeb2.0の方式でもできますが、NFTを組み合わせることによって、NPO自体が資金を調達できるのです。その資金調達こそが、Web3の革新的なところです。