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 「買わない人=未顧客」を理解する初めての教科書『“未”顧客理解 なぜ、「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』。経験豊富なマーケティングサイエンティストであるコレクシアの芹澤連氏がさまざまなエビデンスに基づいた未顧客理解の原理原則と、日々のマーケティング実務で実践できるフレームワークを、マンガと図表で詳しく解説した書籍です。そのエッセンスをお届けしている本連載。今回は人によって認識が異なり、暗黙知化しがちな「顧客理解」を、企業などの組織で共通理解にして浸透させる手法を解説します。

 顧客視点が大切という意識を持っている企業は最近とても増えていますが、前回解説したように、企業全体に浸透させるのはなかなか困難な状況です。今回は「では、どうすればよいのか」、つまり顧客理解の文化を社内に醸成し、学びを蓄積・活用する組織づくりをするための具体的なポイントを解説します。

そもそも「顧客を理解している」の意味が違っている

 商売をしている人は顧客のことを常日ごろから考えています。ですからほとんどの人が「顧客を大事にするなんて当たり前」「当然できている」という認識でいます。しかしその一方で、「では顧客を大事にするとは具体的に何をすることなのか、どうしたら顧客を理解したことになるのか」については、各人それぞれで微妙に異なる独自の考え方を持っているのが現状です。

 特に日本企業では定期的にジョブローテーションがあるので、全く違う畑からマーケティング関連部署に異動するケースも多く、それぞれのバックグラウンドによって顧客の捉え方がかなり異なります。共通認識が薄く、むしろ各人の認識にギャップがあることが「顧客理解とは何をすればいいのか?」といった疑問を生む一因になっています。

「ナレッジマネジメント」の手法で顧客理解を定着させる

 人間の知に関する言葉として、我々は「言葉にできるより多くのことを知ることができる」があります。科学者でもあり哲学者でもあるマイケル・ポランニーが残した言葉です[1]。ポランニーは「暗黙知」の重要性を指摘したことで知られていますが、顧客理解もまた、その大部分が暗黙知です。業務を通して得られた気付き、書籍やセミナーから得た学びは、個人の経験として蓄積していきます。

 「みんな顧客を理解していると思っているが、実はそれぞれが異なる理解をしている」という状態は、暗黙知が分散している状態です。それらは言語化されていないので、周りと共有されることもなく、議論を通して発展することもありません。企業側が何も働きかけなければ、その人の中にとどまり、離職や部署異動によって霧散してしまいます。

 従って、社内外に蓄積された理解を、組織やプロジェクトメンバーへ有機的に還元する仕組みが必要になります。そうした取り組みを「ナレッジマネジメント」と呼び、代表的なフレームワークに、一橋大学の野中郁次郎教授らが提唱するSECIモデルが挙げられます[2]。SECIモデルでは、共同化、表出化、連結化、内面化という4つのフェーズを経ることで、個人が持つ経験や気付きを組織の知識へ変換していきます

注:ポランニーの示した暗黙知とSECIモデルの暗黙知は厳密には異なりますが、本記事では踏み込みません。

 <SECIモデルの概要>

  • 【共同化】対話や共通体験を通して暗黙知を共有する
  • 【表出化】暗黙知を言語化、図式化することで形式知に変換する
  • 【連結化】形式知を組み合わせる、もしくは再解釈して新たな形式知を生み出す
  • 【内面化】形式知を実際に使ってみることで、自分の暗黙知として体得する

 筆者がクライアントに顧客理解のトレーニングを行うときは、このサイクルを顧客理解の文脈に置き換えて、図1のように進めています。ここからは、「顧客理解を組織に定着させるためのSECIモデル」について、フェーズごとのポイントと注意点を踏まえて解説します。

図1 SECIモデルを組織に定着させる方法
図1 SECIモデルを組織に定着させる方法
(出所:コレクシア)