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 書籍『誰も教えてくれなかったアジャイル開発』(日経BP)では、ウオーターフォール型開発が主流の「日本企業」で試行錯誤しながらアジャイル開発を成功に導いてきたコンサルタントたちが、自らの経験を体系化している。本書から抜粋し、工数見積もりによく使う「ストーリーポイント」について解説する。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)

ポイント(4) 開発規模はストーリーポイントで概算

 アジャイル開発での工数見積もりには一般に「ストーリーポイント」を使う。

 ストーリーポイントとは相対的な数値である。まずチームメンバーが皆で基準とするPBI(プロダクト・バックログ・アイテム)を1つ選んでポイントを付ける。そして、他のPBIの1つひとつについて、基準となったPBIと比べて開発の難度が相対的にどれだけ高いか低いかを考え、ざっくりとストーリーポイントを付ける。それを積み重ねると、全体の作業規模を見積もれるというわけだ。

 ポイントを付ける際の値のルールは特にないが、フィボナッチ数列を使うケースが多い。「基準となるPBIは5ポイントだが、このPBIのポイントは2なのか1なのか3なのか」と悩みがちだが、使う値を限定してしまうと素早くざっくりと見積もれるようになる。

 例えばフィボナッチ数列を使う場合、ポイントは「3、5、8、13、21」の5つだけにする。もしくは、「大(L)、中(M)、小(S)」を使い、難度が「大」をはるかに上まわるときだけ特例で「特大(XL)」を加えて計4つの値だけを使う。そうすることで微妙な差で迷わずに済む。

あくまで相対的評価に徹する

 重要なのはPBIの難度を相対的に評価することであって、決してポイント化することではない。しかし実際の現場では、ウオーターフォール型開発経験者が工数での見積もりに慣れているためか、「1ポイント=0.5人日(4時間)」と定義し、PBIにかける工数を時間で一旦見積もった後にポイントに換算するケースがしばしばある。工数(時間)は絶対的な尺度であり、相対的にPBIの難度を評価しているとはいえないのでこうした動きには注意したい。

 時間で見積もろうとすると、PBIの対応時間は開発メンバーによって異なるため「誰にこのPBIを担当させるのか」が問題となる。それを決めるには全PBIの担当者などを決めた詳細な作業計画が必要となるため、初期計画時点では詳細な作業計画をそもそも立てられない。加えて、仕様変更を受け入れるアジャイル開発では、PBI自体が期間中に大きく変わるものだ。これらの理由から当初計画時に、時間による見積もりは避けるべきである。

アジャイル開発とウオーターフォール型開発のそれぞれにおける見積もりタイミングと見積もり方法。タイミングに応じた方法で効率的に見積もる
アジャイル開発とウオーターフォール型開発のそれぞれにおける見積もりタイミングと見積もり方法。タイミングに応じた方法で効率的に見積もる
(出所:シグマクシス)
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 アジャイル開発では、初期計画を立てる段階では作業規模が見積もれれば十分なので、相対的尺度を用いた見積もりが適している。一方、プロジェクトが始まり、直近作業の詳細計画を立てる「スプリントプランニング」においては、開発チームの作業予定を工数ベースでより詳しく立てられる絶対的尺度を用いた見積もりが適している。なおスプリントプランニングにおける見積もりについては、本書『誰も教えてくれなかったアジャイル開発』実践編の第3章で詳述する。