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 書籍『誰も教えてくれなかったアジャイル開発』(日経BP)では、ウオーターフォール型開発が主流の「日本企業」で試行錯誤しながらアジャイル開発を成功に導いてきたコンサルタントたちが、自らの経験を体系化している。本書から抜粋し、予算見積もりのノウハウを解説する。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)

ポイント(6) 開発予算の見積もりには2つの三角形を使う

 初期計画を立案した後、多くの会社ではイテレーションを始める前に、改めて社内で承認を得る必要がある。ここでは「何を」「いつまでに」つくるのかを示すだけでなく、何より大切なのは「いくらで」つくれるのかという見積額をはっきり提示することである。

 見積もりに関して、教科書的には「鉄の三角形モデル」が有名である。「ウオーターフォール型開発は『スコープ』を固定し、『予算』と『期間』を調整しながら見積もるのに対し、アジャイル開発は『予算』と『期間』を固定し『スコープ』を調整しながら見積もる」という考え方である。

ウオーターフォール型開発とアジャイル開発における「鉄の三角形」。見積もりには「固定の条件」と「可変の条件」がある
ウオーターフォール型開発とアジャイル開発における「鉄の三角形」。見積もりには「固定の条件」と「可変の条件」がある
(出所:シグマクシス)
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 ただ実際には、ウオーターフォール型開発でも当初の予算と期間を順守するためにスコープを調整するケースも多い。なぜアジャイル開発においては初期の見積もり時点で予算と期間を固定の条件と考えているのだろうか。

日本企業の社内承認プロセスは無視できず

 確かに、新規事業でよく使われるSoE(System of Engagement)領域の業務システムに関しては、その開発費用や開発期間は事業計画から導出される。つまり、目標とする売上額や競合を見据えたサービス開始日からシステム開発の予算と期間がおのずと決まり、システム開発の前提条件となるわけだ。

 ではSoR(System of Record)領域の業務システムの場合はどうか。本来であれば、SoRの場合も、新規導入やリプレースによる効果を金額換算し、費用対効果から予算を算出すべきである。

 しかし、日本のシステム開発の現状では、まず予算を先に算出し、次にその予算に見合った導入効果を得られるかを検証するという流れがほとんどであろう。システム開発を外部ベンダーに依頼する場合はなおさらこの傾向が強い。加えて、社内で承認を得るには、予算を「どんな機能をいくつつくるか」というスコープの面で説明しなければいけないケースが多い。

 つまり、機能の豊富さよりも顧客価値の最大化に重きを置くアジャイル開発であっても、SoRの場合は機能に関するスコープを一旦仮置きして、予算を算出せざるを得ないのが実情なのだ。そして、プロジェクトが進むと、仮置きした機能のスコープについて、開始後に追加・変更された機能を顧客価値に照らしてその優先順位を見直すという、スコープのコントロールで調整する。