ITを作る側と使う側の両方の視点で活用ノウハウをフレームワークとして整理した「ITIL (IT Infrastructure Library)」。国内では主にIT運用のフレームワークとして知られているが、最新バージョンの「ITIL 4」(以下、ITIL4)は新たなコンセプトの下、DXに求められる要素を盛り込んで生まれ変わった。国内でも既に導入を始めた企業も出てきており、DX現場の悩みを解決するフレームワークとして受け入れられつつある。本連載では、『ITIL 4の基本 図解と実践』(日経BP)を執筆した、ITサービスマネジメントの専門家であるアクセンチュアの中 寛之氏に最新版ITIL4の特徴を解説してもらう。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)
誰もがスマートフォンを持ち、職場以外からタブレットやパソコンを使ってリモートワークで仕事をし、デジタル機器の画面越しに学校の授業を受けている。データがネットワークの雲の向こう側にある今日の社会を、もはやIT(情報技術)を抜きに語ることはできない。このITというものはとても精密で、うまく使いこなすには工夫がいる。そのやり方を教えてくれるのがITIL(IT Infrastructure Library)だ。
ITIL4登場の背景にビジネスとの関係性
ITILは「作る側(IT部門)」と「使う側(業務部門)」の両方の視点で、ITをうまく活用するノウハウをフレームワークとして整理したものである。1980年代に登場した最初のバージョンから今日のITIL4に至るまで、何度もアップデートされてきた(図1)。その背景にはITとビジネスの関係性の変遷がある。
1989年、ITに関わる高いコストと低い品質を解決するために英国はITIL(便宜上、ITILv1と呼ぶ)をリリースした。ITILという名称は、ITインフラの構築・管理方法論を表す「IT Infrastructure Library」の略称である。ITILv1は、ITインフラの安定化にフォーカスしており、「ITはビジネスに技術を提供する」ものであった。
2001年、つぎはぎ拡張されるITILv1を見直し、国際標準化機構(ISO)とのすみ分けも踏まえてITILv2がリリースされた。ITILv2は、ITの品質と効率性にフォーカスしており、「ITでビジネスを助ける」ものと位置付けた。
2007年、ITライフサイクルの一部にばかり注目が集まったITILv2を改めてITILv3がリリースされた。2011年には戦略部分を中心に小規模な更新がされた。ITILv3は、ITとビジネスの整合と統合にフォーカスしており、「ITがビジネスを支える」ものと位置付けた。
そして2019年、プロセスの個別最適に陥りがちなITILv3を改めてITIL4がリリースされた。ITIL4は、ITとビジネスの柔軟性にフォーカスしており、「ITとビジネスは共にある」ものと位置付けている。会社に当てはめると「IT」はIT部門、「ビジネス」は業務部門に当たる。ITを使うときに業務部門へ専門知識を提供するスペシャリストにすぎなかったIT部門は、業務部門のサポーターとして存在感を強め、ついに業務部門のパートナーとして価値実現に取り組む存在へと変化した。
ITIL4が提示する34のプラクティス
ITIL4のコンセプトは素晴らしい。サービスを企画する段階からそれを管理する組織をコントロールする業務までが考慮され、必要となる実用的な手法が34個のプラクティスとして定義されている。それらは特性に沿って、「サービスマネジメントプラクティス」「一般的マネジメントプラクティス」「技術的マネジメントプラクティス」の3種類に分類される(図2)。