ITを作る側と使う側の両方の視点で活用ノウハウをフレームワークとして整理した「ITIL (IT Infrastructure Library)」。国内では主にIT運用のフレームワークとして利用されてきたが、最新バージョンの「ITIL 4」(以下、ITIL4)は新たなコンセプトの下、DX(デジタルトランスフォーメーション)に求められる要素を盛り込んで生まれ変わった。本連載では、『ITIL 4の基本 図解と実践』(日経BP)を執筆した、ITサービスマネジメントの専門家であるアクセンチュアの中 寛之氏に最新版ITIL4の特徴を解説してもらう。連載第2回はITIL4導入のメリットを整理する。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)
DX(デジタルトランスフォーメーション)現場の悩みを解決するフレームワークとしてITIL 4(以下、ITIL4)を使うとはどういうことか。今回はITIL4導入による2つの大きなメリットを見ていこう。
[メリット1]組織の共通言語になる
ITIL4はITサービスのライフサイクル全体を扱うだけではなく、IT組織の運営に必要な要素も網羅するようになった。34個のプラクティスに他のフレームワークを被せるようにしてカバー範囲を比較すると、その網羅性は明確になる。網羅的な把握は検討漏れを防ぐため、既存業務の改善や拡張(新規サービスの受け入れも含む)をするのに特に役立つ。例えば、特定のプラクティスを改善する際、他のプラクティスを見渡して関係性のありそうな要素を発見するのにも有用だ。新しいITサービスが稼働した後に必要となる業務は何かを考える際、サービス開発よりも後に発生する業務に注目すれば漏れなく業務要素を洗い出せる。
カバー範囲が広いということは、それを共通言語として複数の利害関係者が話し合うのに適しているという意味もある。メタバースとVRゴーグルを組み合わせたオンラインサービスを提供したいとしよう。サービスニーズの有無は、顧客サービスに責任を持つ部門が事業分析で関与する。CX(顧客体験)を実現するITアーキテクチャーは、製品標準に責任を持つ部門がアーキテクチャー管理とサービスデザインで関与する。アプリケーションの構築は開発部門、インフラプラットフォームの実装は基盤部門が関与する。
これらはすべてITILを共通言語としてコミュニケーション可能だ。
[メリット2]DX-IT運用を実現する
あらゆる業界で創造的破壊は日常的に生じていたが、クラウド技術が世の中に浸透したことで即応性あるITを実現しやすくなり、そのスピードは大きく加速した。こうした背景から、ビジネス側はDXを積極的に進めている。DXは業務の変化にITを活用するというスタンスではなく、柔軟なITを前提とした業務の創造・変革というアプローチである。これが意味することは、従来のIT運用ではビジネス側の求めるDXを支えられないということだ。
従来のIT運用はビジネス側の要求やシステムの変化に対して受け身になりがちで、オンプレミスを前提としたインフラの準備に時間がかかることは当たり前であった。しかし、それではDXを進めたいビジネス側の要求に対応できない。変化に即応するだけでなく、時には先取りして備えることも求められる。その実現に必要なIT運用を「DX-IT運用」と呼ぶ(図1)。