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『ITIL 4の基本 図解と実践』
『ITIL 4の基本 図解と実践』

 ITを作る側と使う側の両方の視点で活用ノウハウをフレームワークとして整理した「ITIL (IT Infrastructure Library)」。国内では主にIT運用のフレームワークとして利用されてきたが、最新バージョンの「ITIL 4」(以下、ITIL4)は新たなコンセプトの下、DX(デジタルトランスフォーメーション)に求められる要素を盛り込んで生まれ変わった。本連載では、『ITIL 4の基本 図解と実践』(日経BP)を執筆した、ITサービスマネジメントの専門家であるアクセンチュアの中 寛之氏に最新版ITIL4の特徴を解説してもらう。連載第3回はITIL4におけるサービスマネジメントのとらえ方をまとめた。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)

 ITIL4の一世代前に当たるITILv3は、サービスストラテジーを中心にサービスデザイン・サービストランジション・サービスオペレーションが循環し、外側を継続的サービス改善が囲む「サービスライフサイクル」を用いていた。IT組織が顧客・ユーザーに対してITサービスの価値(有用性・保証)を提供するためのプロセスをあらかじめ定義し、それらをサービスマネジメントのベストプラクティスとしてまとめたものがITILv3だ。

プロセス単位業務をITIL4プラクティスに当てはめてアップデート

 ITIL4は、IT組織と顧客・ユーザーが相互影響しながら柔軟に業務を提供できる。インシデント管理や問題管理など従来のプロセスはプラクティスとして再定義し、プラクティス内の活動をグループ化したものをプロセス、複数プラクティスからプロセスを組み合わせて作り上げた業務を「バリューストリーム」と呼ぶ。バリューストリームは「サービスマネジメントの4つの側面」の1つとして定義し、具体的な設計は「サービスバリュー・システム(SVS)」と「サービスバリュー・チェーン(SVC)」を用いる。

 ITILv3に基づいた運用業務を長らく実践している組織では、これまでに培ったプロセス単位の業務にITIL4のプラクティスを当てはめて内容をアップデートするところから始めるとやりやすい。ITIL4への理解深化につれて、異なるプラクティスのプロセスを組み合わせて、自分たちにより適した業務の流れを設計・提供できるようになるだろう。

 顧客への価値提供を目的としたITIL4では、サービスマネジメントを4つの側面と6つの外部要因でとらえている。4つの側面に内包されるものは製品およびサービスであり、その結果として顧客へ提供される価値があることを認識するとよい(図1)。

図1 サービスマネジメントの4つの側面と6つの外的要因
図1 サービスマネジメントの4つの側面と6つの外的要因
(出所:『ITIL 4の基本 図解と実践』)
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ITIL4がサービスをとらえる4つの側面

 4つの側面とは、「①組織と人材」「②情報と技術」「③パートナとサプライヤ」「④バリューストリームとプロセス」だ。これらは、効果的かつ効率的にITサービスを提供・維持管理し、さらなる発展を図るために必要なものである。ITILv3では4つのP(People・Process・Product・Partner)、ITILv2なら3つのP(4つのPからPartnerを除外)としていたものを進化させた、と考えるとよい。

 サービスマネジメントの側面「①組織と人材」には、組織の構造や、権限の集中または移譲、人事評価制度、人材採用制度などの仕組みだけでなく、組織カルチャー・従業員のスキル・コンピテンシーも含む。組織が目標を達成するには、より適した組織構造にして、適材の登用に励むべきである。

例えば、DX推進を大きな目標として掲げるのであれば、堅牢(けんろう)なピラミッド構造よりもフラット構造、中央集権よりも分権を採用することで意思決定のスピードアップと組織間の情報交換・協業を促し、変革の着手を容易にする。DXの活用には失敗がつきものでもある。一度の失敗で人事評価や社内の評判を大きく損なう環境よりも、失敗を乗り越えて次の挑戦を奨励する評価制度やカルチャーが望ましい。