ITを作る側と使う側の両方の視点で活用ノウハウをフレームワークとして整理した「ITIL (IT Infrastructure Library)」。国内では主にIT運用のフレームワークとして利用されてきたが、最新バージョンの「ITIL 4」(以下、ITIL4)は新たなコンセプトの下、DX(デジタルトランスフォーメーション)に求められる要素を盛り込んで生まれ変わった。本連載では、『ITIL 4の基本 図解と実践』(日経BP)を執筆した、ITサービスマネジメントの専門家であるアクセンチュアの中 寛之氏に最新版ITIL4の特徴を解説してもらう。連載第4回はSVS(サービスバリュー・システム)について解説する。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)
SVS(サービスバリュー・システム)とは「機会/需要」から「価値」を生み出す仕組みだ。組織を取り巻く環境の変化は「機会」に、誰かが望む変化は「需要」に該当する。例えば、COVID-19の影響での外食産業の縮小は宅配ビジネスが成長する機会と捉えられるし、あなたが自宅で色々な料理を食べたいと思っているなら宅配ビジネスに対する需要と捉えることができる。
機会/需要をインプットにして新しいサービスを作るために、SVSは5つの要素を有している(図1)。
環境や組織の戦略・業種が変わっても不変の指針
SVSの「①従うべき原則」は組織の指針となる推奨事項を表し、組織を取り巻く環境や組織の戦略・業種が変わっても不変の指針となる。この原則には7つの項目がある(図2)。
SVSの「②ガバナンス」は、従うべき原則に加えて、法令順守や社会規範への順守も含めた、大多数の人間が同じ方向を向いて仕事をするための仕組みだ。従うべき原則で組織の目指すべき方向性を定義しても、常にその通りに行動してもらえるとは限らない。ガバナンスとしてやるべきことは3つある。
1つめは、内部統制の判断基準や行動規範として、組織のOKとNGの基準をつくる。レポーティング・評価によって基準に対する現状を可視化し、基準に達していない場合の是正ルールを含めて仕組みを構築する。2つめは、基準の順守状況を客観的に評価するための仕組みをつくる。上場企業の場合、外部監査という手段を用いる。3つめは、ドキュメントの公開・トレーニング・会議体の設置などを通じて組織内に仕組みを展開し、認知と定着化を図る。
SVSの「③SVC(サービスバリュー・チェーン)」は、価値創出の中心となる。SVCは価値創造の流れに当たるバリューチェーンそのものであり、価値を生み出すための一連の活動をどのように進めるか(How)を定義する役割を担う。
SVSのモデルの中心に位置するSVCは、上下にある要素の影響を大きく受ける。従うべき原則とガバナンスの方向付けに基づいて、SVCは活動の流れを決める。例えば、「すべての作業には上長の承認が必要」だとガバナンスで取り決めているなら、SVCの活動を通して構築した新しいサービスのあらゆる作業は、上長の承認を証跡として残すようになっていなければならない。