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『ダイナミック・サプライチェーン・マネジメント レジリエンスとサステナビリティーを実現する新時代のSCM』
『ダイナミック・サプライチェーン・マネジメント レジリエンスとサステナビリティーを実現する新時代のSCM』

 新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)やロシアによるウクライナ侵攻など予想もしなかった出来事が次々に起こる不確実性(VUCA、ブーカ)の時代が訪れている。これらによりグローバルでのサプライチェーンを巡る状況は一変した。これまで機能していた物流網は機能不全に陥り、ものが買えない、作れない、運べない状況に対して、有効な打ち手を失っている企業も多い。これからのSCM(サプライチェーン・マネジメント)はどうあるべきなのか。『ダイナミック・サプライチェーン・マネジメント レジリエンスとサステナビリティーを実現する新時代のSCM』(日経BP)の著者であるクニエ SCMチームに、新時代に求められる「ダイナミックSCM」について連載してもらう。

ものが買えない――消費者が直面した問題

 2021年12月、「マックフライポテトMおよびLサイズの一時販売休止」のニュースが流れた。日本マクドナルドが主力商品である「マックフライポテト」のM・Lサイズの販売を休止し、Sサイズのみの販売としたのである。同社によると、コロナ禍での世界的な物流網の混乱の影響に加え、船便の経由地であるカナダ・バンクーバー港近郊での大規模水害が追い打ちをかけ、ポテトの輸入が滞っていることが原因であるという。その後、2021年12月31日に販売を再開したものの、年明け早々に再度1カ月の販売休止を発表している。これまで当たり前に購入できた商品が購入できなくなった事態は、多くの消費者に驚きをもって受け止められた。

 McDonald's社は米国調査会社などから高度なSCMを実現している企業と評価されている。そのMcDonald's社をもってしても、新型コロナウイルス感染症を端緒としたサプライチェーンの混乱により、自社の定番商品の安定供給を行うことができなかった。食品だけではない。自動車、エアコン、カメラといった消費財、住宅やその設備などが、欲しいタイミングで、これまでと同じような価格では手に入らない状況である。

 例えば、新車の納車までの期間は、通常であれば1~3カ月程度であったが、それが半年あるいはそれ以上になり、希望のカーナビやドライブレコーダーが納車に間に合わないといったケースが発生している。そうした影響を受けて中古車の需要が高止まりし、2021年の中古車登録台数が新車販売台数を上回って推移し、成約車両価格は前年を上回る状況が続いている。その他、エアコンや炊飯器などの家電製品では一部メーカーが新規受注を中止。カメラなどでは新製品のリリース直後に予約受け付けが一定数に達したタイミングで供給を停止。住宅では木材の需給逼迫により住宅建築自体の価格が高騰したほか、生活に必須となる給湯器の納期が半年待ちといったケースも出てきているという。

 さらに、原油高による輸送コストの増加や原材料費の高騰により、多くの生活必需品の値段が上がり続けている。例えば、多くの家庭の食卓で使われているマヨネーズ。大手のキユーピー社は、2021年7月以降で3回(2022年8月現在)の値上げを発表しており、2021年6月以前に350円(税別)であった主力の450gのキユーピーマヨネーズは、2022年10月出荷分からは1.3倍の439円(同)となる。同社によれば、以前からマヨネーズの主原料である食用油の高騰に加え、生産地での高温乾燥や干ばつの影響による生産量減少や世界的な需要拡大、物流費や人件費、エネルギー価格の高止まりなど、多くの要因が重なっているという。

 こうした状況をテレビや新聞、雑誌などの様々なメディアが「サプライチェーン」や「供給網」という言葉を使って報じている。Googleトレンドで「サプライチェーン」という言葉の推移を見てみると、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい始めた2020年2月以降から関心度が大きく上昇していることが確認できる。「サプライチェーン」という言葉は、これまでにないほどに人々の注目を集め、意識されている。

ものが買えない・作れない・運べない――企業に起きた問題

 供給する側の企業にとっても、事態は深刻である。コロナ禍での人的リソース不足による生産停止、それに付随する部品・原材料の調達不足、さらには港湾機能不全やコンテナ不足に伴う世界的な物流停滞といった問題により、企業がこれまで構築してきたサプライチェーンが寸断されている上に、いわゆる「巣ごもり需要」による消費者の消費性向の大きな変化が混乱に拍車をかけることとなった。

 新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、人々の移動が制限されたことによって、国内生産拠点の稼働率自体が大幅に低下した。経済産業省の2022年6月の『製造工業生産能力指数・稼働率指数の動向』によると、2015年平均を100とした場合の2020年5月の製造工業稼働率指数(季節調整済み指数)は70.6と大幅な落ち込みを記録しており、多くの工場労働者の出社が困難になった影響がうかがえる(図1)。

図1 製造工業生産能力指数・稼働率指数の推移
図1 製造工業生産能力指数・稼働率指数の推移
(出所:経済産業省 製造工業生産能力指数・稼働率指数の動向(Indices of Production Capacity and Operating Ratio))
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 この影響は当然のことながら製造業の取引先であるサプライヤーにも及んでおり、サプライヤーの稼働率が低下することにより、部品や原材料の調達が困難になっていることが、多くの企業を苦しめている。