新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)やロシアによるウクライナ侵攻など予想もしなかった出来事が次々に起こる不確実性(VUCA、ブーカ)の時代が訪れている。これらによりグローバルでのサプライチェーンを巡る状況は一変した。これからのSCM(サプライチェーン・マネジメント)はどうあるべきなのか。『ダイナミック・サプライチェーン・マネジメント レジリエンスとサステナビリティーを実現する新時代のSCM』(日経BP)の著者であるクニエ SCMチームに、新時代に求められる「ダイナミックSCM」について連載してもらう。連載第2回は全く未来が予測できない「VUCAレベル4」の状況で求められるSCMの要件を整理する。
先行きが不透明で将来を正確に見通すことができない状況が「VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)」と形容されるようになって久しい。
不確実性には、次に示す4段階があるとされる。
- Level 1:A Clear enough future(確実に見通せる未来)
- Level 2:Alternative futures(他の可能性もある未来)
- Level 3:A Range of futures(可能性の範囲が見えている未来)
- Level 4:True Ambiguity(全く読めない未来)
「想定外」の事象が頻発する昨今は、まさにLevel 4の時代に突入しているといえる。Stanford大学のニコラス・ブルーム教授らによって設計された「世界不確実性指数(WUI:World Uncertainty Index)」によれば、世界の不確実性は新型コロナウイルス感染症が世界を席巻した2020年にピークを迎え、それ以降も極めて高水準が続いている。
特筆すべきは、サプライチェーン領域におけるこの不確実性の意味合いが、従来と現在とで大きく変化している点である。これまで、この領域における不確実性と言えば、主に消費者、つまり「需要」の動向が予測できないことを指して語られることが多く、だからこそ、各社の主たる関心事は、いかに精緻に需要予測を行うかにあった。
しかしながら現在は、「需要」の不確実性への対応が必要な点は従来とは変わらないものの、それ以上に、天災や疫病、武力紛争によるサプライチェーンへの影響のほか、各国の通商政策、環境、人権問題などへの関心の高まりから派生する「供給」の不確実性が高まっていること。つまり、「需要」の不確実性に加えて「供給」の不確実性をいかに乗り越えるのかがSCMに求められているのである(図1)。なお、グローバルサプライチェーンの発達の契機となった産業革命が起こった1900年ごろから、日本におけるSCMブームが起こった2000年までを「SCM以前」と位置付け、以後2020年までを、日本企業のSCMのテーマが変遷する5年ごとに「SCM 1.0」「SCM 2.0」「SCM 3.0」「SCM 4.0」と呼び、来る「SCM5.0」は、不確実性が大きく高まった2020年以降の時代を指す。
2020年から始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミックによるサプライチェーンに関わる状況の変化をどのように認識する必要があるか。サプライチェーンの戦略、計画、実行の各レイヤーにおいて、それぞれ述べていきたい。