新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)やロシアによるウクライナ侵攻など予想もしなかった出来事が次々に起こる不確実性(VUCA、ブーカ)の時代が訪れている。これらによりグローバルでのサプライチェーンを巡る状況は一変した。これからのSCM(サプライチェーン・マネジメント)はどうあるべきなのか。『ダイナミック・サプライチェーン・マネジメント レジリエンスとサステナビリティーを実現する新時代のSCM』(日経BP)の著者であるクニエ SCMチームに、新時代に求められる「ダイナミックSCM」について連載してもらう。連載第3回は最適化から脱し、強靭(じん)性を備える動的サプライチェーンに求められる4つのマネジメントを整理する。
これまでのSCMは、外部環境があまり変化せず、将来がある程度予測できることを前提にしていた。サプライヤーや工場、物流ルート、販売倉庫など、サプライチェーンネットワークは大きく変わらない(あるいは変える必要がない)ものとし、その上を流れるモノの生産や物流の無駄を極力排除し、サプライチェーンの運用コストを最小に抑えつつ、顧客の要求納期を実現することを目的としてきた。いわば「静的サプライチェーン」の上で、「最適化」という基本ポリシーを実践してきた。
しかし、今日においては、供給に影響を与える要因が多様化し、供給のボトルネックが調達、生産、物流と様々な領域で発生する。不確実性が拡大しており、従来とは違って将来予測が非常に難しいことを前提にしないといけない。これまでを「静的サプライチェーン」と呼ぶなら、これから実現すべきは「動的(=ダイナミック)サプライチェーン」を前提としたマネジメントである。
「動的サプライチェーン」におけるマネジメントが目指すのは、「レジリエンス(強靱(じん)性)」の獲得である。サプライチェーンにおけるレジリエンスとは、地政学リスクやパンデミックなど、様々な要因によりサプライチェーンの途絶を招くリスクが生じた場合の影響を吸収し、顧客に製品やサービスを提供するサプライチェーンとしての基本機能を維持し、自律的に修復し、変化していくことである。
グローバルサプライチェーンは、政治、経済、地理的要素、関連する企業の動きがそれぞれ影響し合う複雑なシステムである。SCMは過去30年にわたって「最適化」を追求してきたが、前提とした経済・社会を含む全体のシステムが大きく変わってしまったため、今は大きな方向転換を迫られている。「最適化」とは、そもそも、あるシステムを「特定の最適な状態」にとどめることを求めるものであり、コスト最小化などの特定の目的のために複雑なシステムを最適化すればするほどシステムのレジリエンスは失われてしまう。効率性を高めることの代償は柔軟性を損なうことであり、同じ目的を果たすための多様な方法(冗長性)は排除され、最も効率的な方法だけが残り、システムは脆弱になる。