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『ダイナミック・サプライチェーン・マネジメント レジリエンスとサステナビリティーを実現する新時代のSCM』
『ダイナミック・サプライチェーン・マネジメント レジリエンスとサステナビリティーを実現する新時代のSCM』

 新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)やロシアによるウクライナ侵攻など予想もしなかった出来事が次々に起こる不確実性(VUCA、ブーカ)の時代が訪れている。これらによりグローバルでのサプライチェーンを巡る状況は一変した。これまで機能していた物流網は機能不全に陥り、ものが買えない、作れない、運べない状況に対して、有効な打ち手を失っている企業も多い。これからのSCM(サプライチェーン・マネジメント)はどうあるべきなのか。『ダイナミック・サプライチェーン・マネジメント レジリエンスとサステナビリティーを実現する新時代のSCM』(日経BP)の著者であるクニエ SCMチームに、新時代に求められる「ダイナミックSCM」について連載してもらう。連載第8回はダイナミックSCMへの転換・再構築を阻む経営者の旧態依然な意識の正体を解説する。

 前回説明したデジタル面、組織・人材面の問題が起こる背景には、SCMに対する経営層の認識不足がある。「SCMとはバックオフィス業務であり、付加価値を生まない」「SCMは現場によるコストダウン手法である」といった声が経営層から上がることがある。こういった認識は過去の日本企業の進展過程の中で刷り込まれてきており、経営層のみならず、組織風土として根深い状態になっている。

既存業務効率化に主眼を置いたITシステム導入

 経営からの要請が業務効率化とコストダウンである以上、これまでのSCMに関連するITシステムの多くは、各業務部門の現場効率を上げる視点が中心であり、実行業務領域の自動化を優先して行われていた。よって、ITシステム導入の前提として既存業務があり、既存業務に対していかにITシステムを合わせていくかに主眼が置かれていた。本来行われるべき業務部門を越えたSCM全体視点でのITシステム対象業務の見極めができず、現場視点で既存業務にITシステムを合わせてしまっている(図1)。

図1 拠点や業務領域ごとに複雑化するレガシーシステム
図1 拠点や業務領域ごとに複雑化するレガシーシステム
(出所:著者)
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 このような既存業務特化型のITシステムが構築された背景には、日本の強みとなってきた「すり合わせ」が影響していると考えられる。日本製造業が武器にしてきたのは、高い製品技術力と徹底的な効率化といえる。いわゆるすり合わせ技術と現場改善である。問題発生時も業務部門間のすり合わせ(あうんの呼吸)で対応し、問題をオープンにせず解決することが美徳とされている節がある。

 ITシステムにおいても、現場改善を支えるために、既存業務を徹底的に効率化することを目的としてつくり込まれた「すり合わせ型」のITシステムが好まれた。既存業務にITシステムを合わせようとすると、フルオーダーメード、もしくは、パッケージシステムに大量の機能改造や追加が発生する。長年の現場改善でつくり込んだITシステムは複雑化し、現在では誰も中身を正確に把握し切れていないという事態も発生している。業務を変えようとしても、既存業務に縛られたITシステムを変える必要があり、それが阻害要因になってしまう。その結果、既存システムと新業務とのつなぎを人間が代替するようになり、新たな属人化、データのアナログ化の負のスパイラルを引き起こしている。

 「サプライチェーン」という言葉からも、供給側が強く意識されがちであるが、プロセスの起点として需要がある。需要は一定ではなく刻々と変化し、供給との間にギャップが生まれる。そのギャップを解消するための変化対応の一連のプロセスをコントロールすることがSCMである。よって、需要側・供給側の双方向からの情報を早く確実に相互に伝え、「調整」することが重要となる。つまり、サプライチェーンが複雑化した今、「調整」を支援するITシステムへの投資も必然的に高くなるはずだ。

 しかしながらITシステム投資は、コストダウンや品質向上といった短期的かつ直接的効果がある部分について、優先的に投資される傾向にある。SCM全体の意思決定スピードと判断精度を高める「調整」を支援するITシステムは、直接的な効果が見えづらく投資が消極的になる(図2)。

図2 IT投資がなされない計画業務領域
図2 IT投資がなされない計画業務領域
(出所:著者)
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 結果、サプライチェーンにおけるITシステムの導入はERP(統合基幹業務システム)に主眼が置かれ、指示情報に基づく実行部分が中心となった。よって、調整が主となるSCM計画業務に関しては、いまだにExcelを活用したマニュアル業務が多いのである。マニュアル業務であるということは、業務領域をまたぐデータが整備されない状態であり、ERPで管理されない未来の計画情報を中心としたサプライチェーン全体の可視化ができない原因でもある。各業務領域でITシステムの導入が進み、エンドツーエンド(end-to-end)での取り組みが進まなくなる。