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『建設協調安全 実践!死亡事故ゼロ実現の新手法』
『建設協調安全 実践!死亡事故ゼロ実現の新手法』

 我々の暮らしをささえる道路やトンネル、ダムといったインフラ、さらには家やビルなどの建造・整備に関わる建設業。その現場は自然環境下での作業になることなどから危険を伴い、全産業の中で死亡災害が最も多く発生している。今後の生産人口の減少を受け、これからの建設業をささえる人材の確保が課題となっている中、建設現場で働く人たちの安全と健康、幸せを約束できなければ、担い手が集まってこない恐れがある――。

 こうした状況を打破するために、『建設協調安全 実践!死亡事故ゼロ実現の新手法』では、従来と異なる新たな安全への取り組みを解説した。本書から、「協調安全/Safety 2.0」と呼ぶ、新しい安全の概念/技術を提唱する明治大学 名誉教授、顧問の向殿政男氏と、建設現場の第一線で重篤災害の撲滅を声高に叫び続けてきた清水建設 土木総本部 顧問の河田孝志氏の対談を紹介する。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)

清水建設では安全教育だけではなく、技術による安全構築にも力を入れています。その代表といえるのが、人と機械と環境が協調して取り組む「協調安全」で、ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)などを駆使する安全技術「Safety 2.0」の導入です。

河田孝志氏 トンネル掘削の施工方法や建設機械の性能が進化し、生産性も安全性も昔よりはるかに高まってきたのに、トンネル工事の切羽の災害はいまだに撲滅できません。安全教育も一生懸命やっていても、やはりヒューマンエラーはなくならない。「絶対安全」はあり得ない。これは、向殿先生から教わったことです。実際、作業員に対して「ここは危険な場所だから、絶対に入るな」などと厳しく伝えても、なぜか入ってしまうことがある。

 こういったケースでも、何らかの対処をして、従来であれば死亡災害につながったような事態が軽傷で済むようにすることが、「人とリスクとの共存」と考えています。我々も今、その実現に向けて、さまざまな策を講じているところです。

向殿政男氏 そうなんです、それがまさしく「協調安全」です。いくら厳しい法律やルールを設けようとも、あるいはきっぱりとテリトリーを分けようとも、人はうっかりミスもするし無視もする。機械は故障もするし暴走もする。だから、人も機械もテリトリーをダブらせておいて互いが欠点をカバーし合うようにしなければ、本当の安全は実現できない。これが、技術と人と環境が協調して安全を確保する、協調安全の考え方なのです。

一般社団法人セーフティグローバル推進機構 会長の向殿政男氏(左)と清水建設 土木総本部 顧問の河田孝志氏(右)
一般社団法人セーフティグローバル推進機構 会長の向殿政男氏(左)と清水建設 土木総本部 顧問の河田孝志氏(右)
(写真:新関雅士)
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河田氏 例えば死亡災害が起きたときに、調べてみると、わざわざ危険なエリアに入っているというケースがよくあります。「危険なエリアである」と警告していたはずなのに、「どうしてそこに人がいたのだ」と。こういう時に限って、本来いるはずの監視人がいなかったりもします。原因が分からなければ、対策は打てません。

 我々が導入したSafety 2.0は、現場や作業員にカメラやセンサーを設置しておいて、作業員が危険なエリアに侵入した途端に大きな音や光を発し、当人にはもちろん、現場の作業員全員に危険が近づいたことを知らせて回避するよう促します。今、多くの現場で実践されるようになってきました。

 こうしたSafety 2.0では、リスクを低減できると同時に、現場の安全意識も高められます。例えばクルマのシートベルト機構では、締め忘れると音が鳴りますが、これがシートベルト着用の順守に結び付いています。先ほど例に挙げたSafety 2.0も同様で、警告がその後の作業員の安全行動の順守につながっていっていると感じています。

向殿氏 製造現場での安全は、人の注意力や判断力によって安全を確保する「Safety 0.0」から始まり、人に危害を及ぼす恐れのある機械を柵で囲ったり危険になったら止めたりする「Safety 1.0」へと進化してきました。後者のSafety 1.0が、先ほど述べた機械安全のことです。しかし、Safety 1.0では、現代の多様化するニーズに対応したフレキシブルな生産ができないとか、柵を設けるために非生産的な場所を広く取るなどの課題がありました。