進む不動産DX
最近、ニュースで「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を聞く機会が増えました。DXはデジタル技術による事業の変革であり、日本企業ではなかなか進まないと思われてきましたが、新型コロナが環境を一変させました。多くの日本企業では、社員に対して顧客に直接会うことを制限し、リモートワークや時差出勤を命じました。DXと言えるレベルの変革が進んだのです。新型コロナの影響がなければ、短期間でここまでの大規模な変化は起きなかったでしょう。
この変化は、もちろん不動産業界でも起きています。そうしなければ、非対面・非接触を希望する顧客と接点を持つことができず、ビジネスを継続できなかったからです。
それまで不動産業界における大きなデジタル化といえば、2015年に社会実験が始まった「IT重説」、すなわち不動産取引における重要事項説明をオンラインで実施することくらいだったと言っても過言ではありません。それが新型コロナの流行以降、オンライン面談、VR(仮想現実)内見、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)での認知獲得などのほか、業務フローを根本的に変えてBtoBサービスを導入するなど、一気にDXへの取り組みが始まったのです。
2021年7月に、不動産テック7社・1団体が不動産事業者237社に対して行ったアンケートによると、「DXを推進している」と回答した不動産事業者は218社。2020年6月の調査では60%程度だった割合が、わずか1年で90%超にまで増えています。新型コロナの影響によって、各社が一気にDXを進めたことがうかがえる数字です。
不動産以外の業界、例えば飲食や美容、小売りなどは、顧客のニーズに合わせて利便性を高め、結果としてデジタル化が進んできました。本来すべてのビジネスが顧客目線でサービス向上を目指すべきですが、このアナログな不動産業界は新型コロナという未曾有の危機に際して、現在「業界大変革」の時を迎えているのです。いまや多くの企業が、オンラインでの物件探しや不動産売買に力を入れています。そしてこの流れは決して止まることはありません。
不動産業界の仕事が変わる
不動産サービスが大きく変化すれば、当然、不動産会社で行われている業務も、そこで働く人たちも変わらざるを得ません。業務フローがガラッと変わるのに伴い社内体制が大きく変わり、新しい職種の社員が隣の席に座るかもしれません。場合によっては現在の仕事が丸ごとなくなってしまうかもしれません。たとえ同じ肩書きであっても、新たなミッションを与えられて困惑するかもしれません。
「自分はどうなってしまうのか」「このままでいいのだろうか」と不安を感じる気持ちはわかります。ここまで急速に変化すれば、そのように感じるのは正常な感覚です。しかし、現状から目を背け、不安を抱えながら何もしないでいると、奈落の底に突き落とされてしまうかもしれません。世界的な大企業でも終身雇用は難しい時代です。受け身のまま過ごしていたのでは、これからさらなる大転換を迎える不動産業界では生き残っていけません。
今必要なことは、どんな変化が起きているかを理解し、自分が何をすべきかをしっかり把握したうえで、未来に向けて行動することです。未来に向けて行動すれば、おのずとキャリアアップの道が見えてきます。これから起きる変化と対応策さえわかっていれば、技術を活用した生産性の高い仕事をすることも、時間と場所にとらわれない柔軟性の高い働き方も可能です。
この連載では、変わりゆく不動産会社のDX最前線を紹介します。次回以降、不動産DXのトップランナーたちが登場します。ご期待ください。
GA technologies 代表取締役社長執行役員 CEO

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