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『通信地政学2030 Google・Amazonがインフラをのみ込む日』
『通信地政学2030 Google・Amazonがインフラをのみ込む日』

 通信やインターネットの世界が政治や巨大IT企業(ビッグテック)に揺さぶられている。今や海底ケーブル敷設の主役も携帯電話のコアネットワークもGoogleやAmazon.comなどの巨大IT企業の手に移ろうとしている。一方で、5GやIPプロトコルでは中国などの権威主義国と民主主義国の覇権争いも激烈だ。これら大国や大企業にネットが翻弄される中で日本の通信産業は空洞化を免れるのか。『通信地政学2030 Google・Amazonがインフラをのみ込む日』(日経BP)から紹介する。

 携帯電話やスマートフォン、固定電話、家庭のブロードバンドサービス。これらの通信サービスは、私たちの日々の生活に無くてはならない存在だ。

 新型コロナウイルス感染拡大によって長く行動制限が課せられた中でも、通信サービスは、私たちの仕事や生活を支える生命線となった。

 テレワークによって自宅から仕事を続けられる。オンライン授業によって、教育を受けられる。ネットを使って買い物も、食事の宅配依頼もできる。映画やドラマを好きな時に見られる。これらはすべて通信サービス、その中でも世界を結ぶグローバルなネットワークであるインターネットのおかげで実現している。

 通信サービスは今や、私たちの生活を支える上で欠かせない、社会・経済インフラと化している。

 通信サービスを提供するには、通信インフラ(通信設備)が必要だ。

 例えば携帯電話サービスの場合、全国各地に鉄塔を建てて、アンテナや基地局を設置し、地域の拠点(ネットワークセンター)と基地局を、光ファイバーなどの伝送路で結ぶ必要がある。ネットワークセンターには、受信者と送信者の間でやり取りされるデータを運ぶために必要なルーターやスイッチ、交換機といった設備を設置する。障害が起きた場合にサービスを直ちに復旧するために、監視設備や復旧体制も必要になる。

 通信サービスを提供する通信事業者は、このような通信インフラを全国に設置し、維持・運用するために、膨大な金額を投資している。国土面積37万8000平方キロメートルの日本において、10年ごとに技術の世代が変わる携帯電話サービスを提供する場合、1世代ごとに数兆円規模もの投資が必要だ。通信産業は、典型的な規模の経済が働く産業構造である。

 日本国内の通信産業は、1985年に施行された電気通信事業法による通信自由化を契機に大きな発展を遂げた。通信自由化によって多数の新規事業者が参入し、競争によって切磋琢磨する群雄割拠の時代に入ったからだ。2022年3月時点の国内の通信事業者数は約2万3000社、2020年度の国内の通信事業者の売上高は15兆2405億円という一大産業へと成長した。

 それ以前の第2次世界大戦終結後は、日本電信電話公社(現NTT)が国内通信を、国際電信電話(KDD、現KDDI)が国際通信をそれぞれ独占していた。

 通信自由化以降、急速な技術発展と激しい競争の結果、事業者の合従連衡も進んだ。NTTとKDDI、そして今世紀になってから参入したソフトバンクという大手3グループへの集約が進んだ。ここに2020年に新規参入事業者として携帯電話サービスを本格開始した楽天グループが加わり、現在の国内通信市場は形づくられている。

 通信事業者を起点とした投資によって、機器を納入する通信機器メーカーや、通信設備を設置する工事を請け負う通信建設会社などのビジネスも潤う。通信インフラがあるからこそ、ゲームや動画・音楽配信、SNS(交流サイト)といったオンライン上のサービスも広がった。通信インフラは、国内の様々な産業を潤す泉のような存在だ。