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 SI企業の強み・弱みを分析し、SIビジネスの先行きについてまとめた書籍『SI企業の進む道 業界歴40年のSEが現役世代に託すバトン』。同書から抜粋し、「誰も指摘しなかったSI企業の課題」を連載で指摘する。今回は、SIerが生産性向上に取り組もうとしない構造要因に踏み込む。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)

 高いソフトウエア生産技術があればあるほど、SIerとしての技術力は高くなる。SIerはITシステムの開発をなりわいにしているのだから、技術力は開発生産性と直結するはずだが、SIerは開発生産性を上げようとはしない。

 これに関連して、面白い実話がある。ある部署では中国のオフショア活用が全く進んでいなかった。そこで、中国オフショアの活用方法を教育するとともに、実際に仕事をする中国の会社を紹介し、進め方について議論し、トライアルなどを経て、いよいよ本格的に提案するようになった時の話である。

 以下、数字が出てくるが、分かりやすくするための架空の数字である。見積もり内容とそれに必要な工数を算出した結果、従来の方式だとコストが10億円になったので、利益とリスク分として20%上乗せし12億円で提案することになる。ところが、中国オフシュアを活用すればコストが8億円になるので、利益とリスク分を上乗せして9.6億円で提案しますと胸を張ったのである。

頑張った分の半分は我々がもらうべき

 私はあぜんとして質問した。「12億円で提案して提供するものと、9.6億円で提案するものと、価値は違うの?」。きょとんとして担当者は「同じです」と答えるので、私は「12億円から9.6億円に提案金額を下げるための努力をしたのは誰?」と聞くと、担当者は「頑張ったのは我々です」と答える。「だったら、少なくとも頑張った分の半分は我々がもらうべきだよね」。

 このようなことは、多くのSIerで行われている。自分たちの努力も顧客にすべて還元するのである。IT技術者は、非常にまじめなのか、抜けているのか、両方なのか読者の皆さんが判断してもらいたい。

 ここでの問題は、生産性を上げるとなぜか売値と利益が減ってしまうということである。この感覚こそが、生産性向上の大きな足かせになっている。

 本来、価格競争になった場合、安い方が有利になる。しかし、建設基準法のような最低品質を国が保証する仕組みはない。見積もりを精査する技術が顧客には十分あるわけではない。そうするとおのずとリスクの低い手慣れたSIerに仕事を頼むことになる。

 しかもSIerは、ばか正直にコストプラスアルファの提案をしてくる。基本、上乗せして提案するなんて考えもしないのである。逆に、安い提案をしたとしても、顧客は評価できない。人月単価で高い安いは言えるが、全体コストの高い低いはわからないのである。