ビービットの藤井保文氏が新たな著書『ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件』(日経BP)を執筆、2022年12月に刊行した。藤井氏は現在のデジタル社会の到来と実像をいち早く予見したベストセラー『アフターデジタル - オフラインのない時代に生き残る』(日経BP、2019年)の著者の1人。新著は「アフターデジタル」を提唱後に新たに登場したキーワード、例えば「パーパス」「SDGs」「Web3」「メタバース」などを取り込んだ新たな世界観を示しているデジタル社会を予言した。この連載では藤井氏に大きなインパクトを与え、本書の執筆のきっかけにもなったインドネシアの国民的アプリ「Gojek」の解説を、本書からの抜粋でお届けする(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)。
インドネシアのBtoB向けサービスの特徴的なモデルとして、「Warung Pintar(ワルンピンタール)」というサービスがあります。Warung(ワルン)とは、街中のちょっとした空きスペースに設置されたキオスク型小型店舗のこと。インドネシアには、飲食物や雑貨を販売するワルンが数多く存在しています。Pintar(ピンタール)はインドネシア語で「スマート」の意味、つまりWarung Pintarは、スマートキオスクを手掛けるスタートアップです。
キオスクをアップデートする「Warung Pintar」
何が特徴的かというと、まずはその見た目でしょう。黄色いボックス型ワルンがあり、冷蔵庫や椅子、テレビ、Wi-Fiやコンセントが用意されています(写真1)。「今からワルンを始めたい」というオーナー志望の人に、黄色いボックス型ワルンを丸ごと無料で貸し出すのがワルンピンタールというサービスです。なお、敷地に対する賃料はワルンのオーナーが自ら支払うことになります。
インドネシアの庶民にとって身近なワルンですが、面白いことに近年は「ドライバーたちの待機場所」という新たな役割を担うようになっています。Gojekの躍進により、街にはたくさんのバイクドライバーたちがあふれるようになりました。一日中街を駆け回るドライバーたちにとって、Wi-Fiやスマホを充電できる電源があり、案件が舞い込むまでテレビを見たりゲームをしたりしながら暇つぶしできるワルンは、注文を待つ間の待機場所、休憩場所にぴったりなのです。私も実際にジャカルタを訪れた際、いくつものワルンを見て回りましたが、特に繁華街やショッピングモールに近いワルンは多くのドライバーのたまり場になっていました。