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 『モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質』
『モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質』

  自動運転サービスの実現は、まだ先の話――。多くの日本人はそんな認識でいるかもしれないが、すでに米国では自動運転の無人ロボタクシーが一般客を乗せて走っている。その有力プレーヤーの1つが、米Google(グーグル)の親会社であるアルファベット傘下のWaymo(ウェイモ)だ。新刊『モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質』(日経BP)をベースに、米国の今をリポートしていく。(日経クロストレンド編集部)

世界初のロボタクシーサービス「Waymo One」
世界初のロボタクシーサービス「Waymo One」
(出所:Waymo)
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 ウェイモが目指す自動運転サービスとはどんなものか。まずは、こんな未来から想像してみよう。


 「もう午後5時か」

 大手メーカーのシリコンバレー支社に勤めるA氏は、ため息をついた。今日は午後6時からサンフランシスコで日本人駐在員の懇親会がある。

 「そろそろ、出かける準備でもするか」。そう独り言を言ってスマートフォンを手にした瞬間、ショートメッセージが届いた。グーグルからだ。

 「サンフランシスコまで無料で移動しませんか?」

 メッセージによれば、現地到着まで余計に40分ほどかかり、スーパーと雑貨店に寄ることになるが、無人のロボタクシーを無料で利用できるという。タクシーを使うと、70ドル(約1万円)かかる道のりだ。しかも、スーパーと雑貨店は、ちょうど寄りたいと思っていた場所だった。グーグルはインターネットの検索履歴に基づき、実際に検索した場所への訪問を促す広告サービスを開始していた。何でも、無人ロボタクシーのコストは1マイル当たり0.2ドルを切っているとか。目的地までは50マイルだから、ざっと10ドル分の輸送コストで来店確約となるオファーだ。

 「よし、今日はロボタクシーで行こう」。A氏はスマホの画面を操作し、ロボタクシーを呼び出した。ハンドルがない車内は座席もゆったりくつろげる仕様で、全面がスクリーンになっている快適な空間だ。今日の仕事は終了したのでリラックスしたい気分でいると、車内のスピーカーから動画鑑賞の提案があり、YouTube(ユーチューブ)で前回見終わったところから動画の続きが始まった。

 次の日、朝食を食べているA氏のスマホに、またグーグルからのメールが届いた。件名は「毎月、マイカーにいくら払っていますか?」。この問いに、指を折りながら簡単に計算してみた。「車両のローン代、保険料、ガソリン代に駐車場代、メンテナンス費用も必要だ。ざっと、月々800ドルは払っているかも」

 それに対してグーグルからの提案は、月額400ドルでロボタクシーによる送迎サービス、さらにバス、地下鉄、スクーターが乗り放題になるというものだった。遠出するときのレンタカー代までもが追加費用なしで利用でき、ピザのデリバリーも配送費が無料となるという。出かけたいときにわざわざロボタクシーを呼ぶのは少し面倒だが、目的地付近の駐車場の空きを気にしなくて済み、好きな場所で最も適した交通手段を選んで移動できるのは便利そうだ。A氏は車を持たない生活を頭の中に思い描き始めた――。


 以上の未来を想定したフィクションからは、グーグルが将来、現実的に提供可能なサービスとそのビジネスモデルが見えてくる。ロボタクシーのサービス自体はもちろん、サブスクリプションモデルの提案、アンドロイドスマホとの連携が考えられる。

自動運転システムの外販目指す

 グーグルは、2009年に自動運転車プロジェクトを開始し、他の自動運転車の開発企業よりも先んじて15年にカリフォルニア州マウンテンビュー市内の公道で自動運転のテスト走行を行った。16年には親会社のアルファベット傘下にウェイモを設立している。当初から無人の完全自動運転ありきで参入しているのが特徴だ。

 そんなグーグルが目指すのは、他社への自動運転システムの提供だろう。すでにウェイモの自動運転の走行距離は約233万マイル(約374万km)に達しており、他社を圧倒している。雨や動物、道路環境など、様々なユースケースの走行データをAI(人工知能)に学習させることで、安全性の高い自動運転OSの確立に専念している。

 実際、ウェイモは車体自体の製造はしていない。すでに700台以上の自動運転車を保有しているが、ジャガーやクライスラーの電気自動車(EV)など様々だ。こうした自動車メーカーの協力を得て、数年後には米国でEVロボタクシー専用車の導入を検討している。