建設テックの未来と業界の課題解決について提言している『Digital General Construction 建設業の“望ましい”未来』(2022年、日経BP)。同書から米国の建設テックの現状と日米の差を解説する。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)
建設テックのスタートアップは日本だけではなく世界中で盛り上がり、米国を中心として様々なサービスがたくさん生まれています。米PlanGrid社はその代表格です。2011年に創業し、米Y Combinator社という有名アクセラレーター(スタートアップを支援する団体)に入り、瞬く間に2019年には米Autodesk社に1000億円近い価格でM&A(合併・買収)されました。米国はそもそもスタートアップの総量が多いということもありますが、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の初期普及率を見ても日本より米国のほうが高く、一般的なITツールも日本より米国のほうが早く広がることから、建設テックサービスも米国が先行すると思います。
日本と米国の違い
米国と日本では、建設業の構造が異なります。一般に、日本で建物を建てる場合、まずはゼネコンに依頼します。そしてゼネコンは協力会社を集め、1次の協力会社がさらに資材や職人の調整をします。いわゆる多重下請け構造で、2次請けも必要に応じて3次、4次と人集めをします。よく「多重下請け構造は悪なので建設テックの力でなんとかする」といった声もありますが、私個人の意見としては決して多重下請け構造が悪とは思いません。建設業の仕事には季節変動があり、かつ「持たざる経営」が基本スタンスの中で、自社で職人を抱え込むことなく固定費を抑え、収支を調整することで建設業はこれまで繁栄してきました。そのため、テクノロジーの力で中間を飛ばしてダイレクトで受発注するというのは聞こえが良いものの、現実にはいろいろな問題があり、すぐにできるとは思えないのです。
日本の多重下請け構造に対し、米国はスター型と表現できます。これは、日本のゼネコンのように元請けがいてそこがすべて仕切るのではなく、建物のオーナー側にコンストラクションマネジメント(以下、CMr)という役割の人がいて、そこから設計や見積もり、施工といった関連職種に仕事を割り振ります。そのため、日本よりは各コストの透明性が担保されていますし、発注した後にブラックボックス化せずに施主側が有利になります。日本ではゼネコンが様々な部分を調整してくれるため、どちらが良いというわけではありません。CMrは最近では日本でも少しずつ事例が出てきており、近年だと北海道日本ハムファイターズの新本拠地となる北海道ボールパークで採用されています。
先ほど「建設テックサービスは米国が先行する」と書きましたが、それはなぜなのでしょうか。推測ですが、恐らく導入する側のインセンティブが関係していると思います。
日本はインセンティブが働かないとなりますが、その理由は、建設テックの導入費用をどうやって拠出するかにあります。日本のゼネコンが建設テックを導入して生産性向上を進めようとしても、建設プロジェクトの費用を使うわけにはいかないのです。建設プロジェクトの費用は施主が払っており、その費用を使って建設会社の生産性向上のためのITツールを入れようとすると様々な説明が必要になってくるからです。基本的には自社の管理費から捻出しますが、そうなると当然のことながら、個々のプロジェクトより自社組織に目が行きがちです。しかし、生産性向上は建設プロジェクト全体を通して実現されるものなので、このねじれが日本で建設テックの普及がスローペースになっている要因だと思われます。
一方で、米国のスター型の組織では導入のインセンティブが働きやすいです。全体を取り仕切るCMrは、いかにプロジェクトが効率良く進むかを重視します。また、複数の会社とのコラボレーションが必要であるため、CMr自身はITツールを導入したほうがはるかに動きやすいのです。顧客側に立っているため予算もつきやすいということもあるかと思います。