建設テックの未来と業界の課題解決について提言している『Digital General Construction 建設業の“望ましい”未来』(2022年、日経BP)。同書からの抜粋で、建設テック専門のベンチャーキャピタルの存在や資金調達規模の日米差を解説する。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)
前回の最後に「産業特化のVertical SaaS(垂直的なソフトウエア・アズ・ア・サービス)だからこそ、GAFA(アメリカの主要IT企業、Google、Amazon、Meta(旧Facebook)、Appleの略)のような海外企業に覇権をとられたくない」と書きましたが、海外の建設テック会社と既に大きな差が開いてしまっているのが現状です。国内でなんとかローカル性を武器に戦ってはいるものの、日本人は海外のテクノロジーに引き付けられる傾向があり(かくいう私もそうですが)、海外のサービスに国内市場を席巻される状況になってもおかしくありません。特に米国では、米Procore社や米PlanGrid社を筆頭に建設テックの層は厚くなっています。そもそもスタートアップの数も違いますし、資金供給量も桁違いです。
図面管理サービス分野の状況
テクノロジー全体を見たら特定業界に特化した建設テックはニッチですが、マーケットポテンシャルが少しでも感じられれば次々と競合が入ってきます。事実、PlanGrid社が図面管理サービスとして参入した後、同分野に多くのサービスが参入しました。例えば2013年に米国サンフランシスコのFieldwire社が提供したサービスは、PlanGridと同じように、従来の建築図面にタブレット上で様々なデータを付加できるクラウドサービスです。世界で100万を超える工事現場で使われており、ベンチャーキャピタルから数十億円の規模で資金調達を行っています。PlanGridのリリースは2012年ですので、類似サービスである2社は激しい競争をしたのではないかと予想できます。もちろん、そのほかにもたくさんの類似サービスが生まれては消えるということが繰り返されました。
日本の図面管理サービスはPlanGridを参考にYSLソリューションの「CheX」、OKI「TerioCloud」、スパイダープラスの「SpiderPlus」などが生まれ、今でも競争をしていますが、これ以外の強力なサービスはここ数年生まれていません。ベンチャーキャピタルから出資を受けたのはSpiderPlusだけで、その額は数億円と言われており、これだけでも米国との差を感じます。誤解を生まないように記載しますが、調達金額が大きければすごいわけではありません。成長に必要な金額を投資してもらうのであり、成長するのに少しの金額しか必要ないなら、非常にパフォーマンスの高い経営をしていると言えます。もちろん、黎明(れいめい)期に多額のコストをかけてグローバル展開していたら状況は変わっていたかもしれない、という話もあるかもしれませんが、答えは誰にも分かりません。ここで言いたいのは、当時国内で建設テックに数十億円、数百億円と投資できるベンチャーキャピタルがいたかということで、スタートアップのエコシステムの課題ということもあります。
ちなみにFieldwire社はPlanGrid社がAutodesk社に買収されたのち、2021年に建設業向けの工具などを扱うグローバルメーカーのリヒテンシュタインHilti社に買収されます。買収金額は3億米ドルで、国内のM&A(合併・買収)のディールであれば上から数えるほうが早い規模であり、建設テックのスタートアップが数億米ドルで買収されるという点で見ても、日本よりも建設テックへの認知が高い状況だと言えます。