新型コロナウイルス禍による物流網の寸断に、ウクライナ危機をはじめとした国際情勢の変化による供給不安、そして相次ぐ自然災害による工場の操業停止……。さまざまな要因が製造業におけるサプライチェーン(供給網)の安定性を脅かしています。
こうした事態に企業が在庫の考え方を見直し始めました。ところが、多くは在庫の「善悪論」に終始しているというのが実態です。本書が勧めるのは「目的志向の在庫論」です。すなわち、在庫を必要性で見るのではなく、経営目的の達成に貢献しているか否かで評価します。そのうえで、さらに「攻めの在庫」と「守りの在庫」という攻守2つの視点で在庫を戦略的に捉えていくという方法を解説します。
在庫管理のノウハウについては類書が多く出ていますが、経営視点で、目的志向の考え方で在庫戦略に触れた書籍はあまりありません。本書が不確実なこれからの時代に負けない在庫戦略を立案する一助になれば幸いです。
目次
- 第1章 本書で考える在庫の定義
- 1.1 在庫とは何か
- 1.1.1 意外と知られていない在庫の定義
- 1.1.2 在庫の意味を理解する
- 1.1.3 陳腐化した棚卸し資産について
- 1.1.4 参考(会社法と税法での棚卸し資産の違い)
- 1.2 在庫の経営的意味
- 1.2.1 在庫は金が姿を変えたもの
- 1.2.2 実務者は在庫が欲しい
- 1.2.3 在庫の多い/少ないはどう考えるのか
- 1.2.4 在庫は仕事の質のバロメーター
- 1.2.5 在庫削減は工場マネージャーの責務
- 第2章 不確実な時代における在庫の課題
- 2.1 調達非常事態の厳しい現実
- 2.1.1 調達非常事態の到来
- 2.1.2 調達非常事態を理解する:感染症による影響
- 2.1.3 調達非常事態を理解する:売り手側企業の抱える問題
- 2.1.4 調達非常事態を理解する:グローバルでの地政学的変化
- 2.1.5 調達非常事態における在庫の積み上げ
- 2.2 調達非常事態はずさんな在庫管理の免罪符ではない
- 2.2.1 「在庫ゼロ」の理想工場
- 2.2.2 予測困難な状況下で急増する在庫
- 2.2.3 過剰な在庫がもたらすデメリットを認識しておく
- 2.2.4 在庫の増加に伴う管理のずさん化を防ぐために注意すべきこと
- 2.3 在庫の善悪論を経営目線で考える
- 2.3.1 在庫は悪か善か
- 2.3.2 在庫の善悪論の本質
- 2.3.3 管理者を悩ます、在庫は「悪」の声
- 2.3.4 今こそ在庫の在り方を再考するチャンス
- 2.3.5 経営戦略と在庫の考え方を整合させる
- 第3章 その在庫は付加価値の向上に役立っているか
- 3.1 在庫は経営目標を実現するための手段
- 3.1.1 在庫を持つ目的は何か─攻めの視点で考える─
- 3.1.2 在庫は「必要性」ではなく「目的」でみる
- 3.1.3 企業が生み出す付加価値を増やす
- 3.1.4 企業の競争優位を支える在庫
- 3.2 実務者にとって在庫があると便利な現実
- 3.2.1 実務者の仕事の質と在庫の関係を考える
- 3.2.2 在庫がなければ商売にならない
- 3.2.3 在庫がなければ生産できない
- 3.3 在庫を持つことで付加価値をどう高めるか
- 3.3.1 その在庫は付加価値向上に寄与したのか
- 3.3.2 目的達成に貢献しなかった在庫を把握する
- 3.3.3 目的達成に貢献しなかった在庫の理由を問う
- 3.3.4 目的達成に貢献しなかった在庫の現金化
- 3.3.5 予防的な処置へと発展させる
- 第4章 その在庫はリスクの回避・低減に役立っているか
- 4.1 在庫を持つことは経営を安定化するための手段
- 4.1.1 在庫を持つ目的は何か─守りの視点で考える─
- 4.1.2 「安心」ではなく「安全」の視点で在庫を考える
- 4.2 実務者にとって在庫があると多くのリスクを回避できる現実
- 4.2.1 実務者が避けなければならないリスクと在庫の関係を考える
- 4.2.2 在庫は生産に関わるリスクを軽減する
- 4.2.3 在庫は経営リスクを軽減する
- 4.3 在庫を持つことでリスクをどう回避・低減するのか
- 4.3.1 その在庫はリスクの回避・低減に寄与したのか
- 4.3.2 リスクの性格には2種類ある
- 4.3.3 リスクの性格によって対応を変える
- 4.3.4 リスクに対応する在庫は戦略的に持つ
- 4.3.5 在庫を増やした責任者を明確にすること
- 第5章 知っておくべき在庫の基本
- 5.1 在庫の理論は武器になる
- 5.1.1 職人芸かシステム化か両極に分かれる在庫管理の実態
- 5.1.2 在庫管理とITシステムの活用
- 5.1.3 経営戦略、そして在庫のあるべき姿を考えるのは「人」
- 5.1.4 在庫理論は本当に役に立たないのか
- 5.2 在庫理論の基本的な考え方と実用面での注意点
- 5.2.1 原材料に対する在庫管理
- 5.2.1.1 定期定量発注方式
- 5.2.1.2 定期不定量発注方式
- 5.2.1.3 不定期定量発注方式
- 5.2.1.4 不定期不定量発注方式
- 5.2.2 在庫管理で必須のABC分析
- 5.2.3 原材料の需要タイプに応じた管理がポイント
- 5.3 サプライチェーン・ビジネスモデルから見た在庫の考え方
- 5.3.1 仕掛かり品と製品に対する在庫管理
- 5.3.2 プッシュ生産とプル生産
- 5.3.3 ロットサイズと生産の考え方
- 5.3.4 1個流し生産
- 5.3.5 サプライチェーンにおけるストックポイントの考え方
- 5.3.6 在庫管理の重要なポイントは見える在庫管理
- 5.3.7 システム活用を見据えた業務プロセスの進化と在庫
価格:3520円(税込)
ISBN:9784296201211
発行日:2023年01月10日
著者名:古谷賢一 著
発行元:日経BP
ページ数:228ページ
判型:A5