「新規事業を起こすにはどうすればいいのか?」。多くのビジネスパーソンが悩んでいるこのテーマに、クリエイターから新たな方法が示された。
自らを「知財ハンター」と名乗り、テクノロジーを基に数多くのアイデアを形にしてきた出村光世氏(Konel 代表/知財図鑑 代表)が著した書籍『妄想と具現 未来事業を導くオープンイノベーション術DUAL-CAST』がそれだ。出村氏に新たな方法の特徴などを聞いた。
(聞き手は、同書の担当編集者である、松山 貴之=技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)。
多くの日本企業が新規事業に取り組んでいます。昨今の事業はテクノロジーが基点になっていることが多いので、企業のR&D部門の研究者は自社開発したテクノロジーを生かしたいと思っていますし、大企業を中心に「新規事業開発部門」がつくられ、多くの事業が企画されてきました。ただ実際のところ、成功例が生まれる確率はいつの時代も低いように感じます。
出村光世氏:日本企業に新規事業があふれているのは実感しています。多くの企業で「新規事業開発室」のような新たな部署がつくられ、優秀な人材が異動してきているケースも少なくありません。私はそうした人たちと関わることが多いのですが、ご指摘のように、新規事業開発を成功に導くのは、生半可なことではありません。
出村氏:優秀な人材なのになぜなのでしょうか。一番に思うことは、部門の空気の重さです。本来、新規事業開発というのは、社内外を巻き込んで発展させていく、もっとワクワクして取り組むものだと思うのですが、どこか重苦しい雰囲気があります。なぜそうなのかと疑問に思い、いろいろと話を伺うと、「新規事業を提案しても収益の話になって前に進まなくなるから」というケースがとても多いのです。
100%成功する新規事業はない
100%成功すると分かっている新規事業はないと思います。「千三つ」(千個の取り組みで成功するのは三つくらいの意味)という言葉があるように、新規事業の成功確率は高くありません。企業である以上、収益を上げないといけないのは理解できますが、新規事業の提案に対して「いつになれば、どれくらいの収益を上げるのか」といった質問は早過ぎます。
その結果、重苦しい雰囲気になり、ますます成功から遠ざかってしまっているように思います。
「イノベーションのジレンマ」ですね。成功している企業から新たな成功事業はなかなか生まれない。
出村氏:いきなり「収益化」へと話が進んでしまうから、「前に進められない」といった閉塞(へいそく)感を抱いてしまうのだと思います。そうならない進め方を考えた方がいいと思います。私たちは最初のうち、「事業企画」という言葉をできるだけ使わないようにしています。こうした“固い”言葉を使ってしまうと、すぐに収益の話になってしまいがちだからです。
「妄想」という言葉を賢く使おう
収益の話になりにくいマジックワードがあります。それが「妄想」です。「妄想」という枕詞(まくらことば)を使っておけば、企業で責任ある立場の人も「いつになったら収益を上げるのか」とは、まず指摘しません。そんな段階ではないと分かってもらえるのです。現実的な話にならず、企業の論理から逃れられます。
さらに、「妄想」という言葉を使っていると、いろんな人が自由に自分の意見や考えを言ってくれます。妄想には空気を変える効果があるのです。「こうしたシーンでも使えるよ」といった前向きな意見のほか、「実現するにはここに問題がある」といった課題を指摘してくれます。
前向きな意見も課題の指摘も、どちらもとてもありがたいものです。課題の指摘をネガティブに捉える必要はありません。実際、課題を指摘してくださる方は、「可能性があるとすればこの技術だけど、まだ実用は先なんだよね」といったアドバイスをくれることが少なくありません。考えてみれば、わざわざ課題を指摘するというのは、妄想について一緒に考えてくれているということです。とても、ありがたいことです。これも妄想の効果です。
「妄想」と呼ぶことで、企業の論理に振り回されずに魅力的な事業案にしていくことができるわけですね。これなら多くの企業で実践できると思います。
出村氏:「新規事業開発室」のような組織があるなら、その組織の空気はとても大事です。新規事業を成功させるのにアイデアを生み出すことはもちろん重要ですが、もっと大事なのは、それを実際の形にし、協力者を巻き込んでいくことだと思います。すごいアイデアを思いつけば、自然に事業化するわけではありません。