金融・IT業界が驚いた「みんなの銀行」の誕生。勘定系基幹システムを含む銀行機能のすべてをGoogle Cloudで提供する「デジタルバンク」だ。同銀行の開発の軌跡を追った『イノベーションのジレンマからの脱出 日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」誕生の軌跡に学ぶ』(日経BP、2023年)から、同行を支えるクラウドを提供するグーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の平手智行氏と、5回にわたって開発の経緯を振り返る。聞き手はみんなの銀行 執行役員CIO(最高情報責任者)の宮本昌明氏。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部、本文中敬称略)
みんなの銀行 宮本昌明(以下、宮本)(当初からSIerとして参加している)アクセンチュアさんからみんなの銀行プロジェクトの相談があった時、Google Cloudさんではどのような反応がありましたか?
「これ、本当にやるんですね?」と念を押した
Google Cloud 平手智行氏(以下、平手)まず、私はこのお話については少しだけ伺っていました。当初はふくおかフィナンシャルグループ(ふくおかFG)さんにおいてもみんなの銀行プロジェクトについてご存じの方は限られていたと理解していましたが、とにかく奥歯に物が挟まったようなコミュニケーションでした。永吉さん(編集部注:プロジェクトのリーダー、現・みんなの銀行 取締役頭取の永吉健一氏)からもいろいろと聞かれるのですが、全体の情報を共有していないのでよく分からなかったのです。
そのため、後日、まさかこれほど壮大な構想と知った時は身震いするほどワクワクしたことを覚えています。同時に、これはえらいことになったと。日本のクラウド利用の歴史始まって以来のすごいケースになるぞと。
実現すれば日本の金融業界のパラダイムシフトですからね。完全に潮目が変わると。金融情報システムセンター(FISC)の『金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書』の第8版(2014年)以降で、クラウドを使ってもよろしいという流れができたばかりだったと記憶しています。
当時金融業界は、周辺のシステムだけクラウドに載せている状態でした。ただ、海外ではバンキングシステムをクラウドに載せた例が出てきていました。それでも実態はよく分からない感じでした。ですから、みんなの銀行さんの構想を知った時には、とても興奮しましたね。
アーキテクチャーについてはアクセンチュアさんから伺いました。マイクロサービスで少し粒度を大きくしてCloud SQLを入れてCloud Spannerで引っ張りPub/Subの構成で、と聞いた時には思わず直立不動になっていましたよ。文字通りにフルクラウドでデザインされていました。「これ、本当にやるんですね?」と念を押して、うれしくなりながらも、「こちらも本当にやるぞ」という決意に満ちましたね。それで当社(Google Cloud Japan)の社員には「日本の夜明けだ」と本当に言いました。何としても成功させるぞ、と招集を掛けたことを覚えています。