金融・IT業界が驚いた「みんなの銀行」の誕生。勘定系基幹システムを含む銀行機能のすべてをGoogle Cloudで提供する「デジタルバンク」だ。同銀行の開発の軌跡を追った『イノベーションのジレンマからの脱出 日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」誕生の軌跡に学ぶ』(日経BP、2023年)から、同行を支えるクラウドを提供するグーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の平手智行氏と開発の経緯を振り返る5回連載の3回目。聞き手はみんなの銀行 執行役員CIO(最高情報責任者)の宮本昌明氏。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部、本文中敬称略)
みんなの銀行 宮本昌明(以下、宮本) マイクロサービスで作るとなった時に、マイクロサービスの良さは疎結合で、それぞれがスクラムを組んでアジャイルに作れることでした。ところがアジャイルで作ろうとすると、もともとふくおかフィナンシャルグループにいた人材だけではとうてい成り立たせることができない。そこで私のようなキャリア採用者が多いのですが、この人たちは銀行システムに触ったこともなければクラウドの経験がない人もいて、また、エンジニア以外の人も含めてスクラムを組むのですが、どうやってカルチャーを一つの方向に向けていくのかは、今でも苦労しているところです。
多様な人材をどう一つの方向に導く、Google流の答えは?
その点、Google Cloudさんは、すごいなと思っているんです。様々な国の人たちが英語を公用語として一緒にランチしながら前向きな議論をされていて。私も2回ほど渋谷のオフィスに伺ったことがありますが、食堂などでは多様性が大切にされている文化を肌で感じました。
どのようなことに気を付けられているのでしょうか
Google Cloud 平手智行(以下、平手) 恐らく、イノベーティブなカルチャーを維持し続けるというのはGoogle Cloudの中で最も重視されていることだと思います。特にエンジニアが力を発揮できる環境がとても重要となります。
もともとベンチャー企業でガレージから始まっているため、カルチャーフィットという考え方を大切にしていました。カルチャーフィットとは、同じスキルと同じ経験、そして同じ価値観を持っている人たちが5人から10人になればスケールアップし、10人が50人になればさらにスケールアップすることを示します。カルチャーフィットしていればミスも起こりにくく、プロジェクトも迅速に遂行されます。
ところがカルチャーフィットでスケールアップすると、いつの間にかそれがサイロになり、コンフォートゾーンになってしまいます。つまり、そこは得意だけれども他は知らないという状況です。
そこでGoogleは、カルチャーアッド(add)という考え方に変えているんですね。カルチャーアッドというのは、Tの字の縦棒が専門性だとすれば、この専門性が深いほど価値がありますのでそれは技術者として求められます。
しかし1人が1本しか知らないとしても、お客様はTの字の横棒いっぱいに広がるような多様性を求めるので、異なるスキルと経験を持った人材を足していく必要があります。これがカルチャーアッドという考え方になります。
Goolgeは「カルチャーアッド」、ダイバーシティー&インクルージョンが価値を生み出す
そうすると、経験も価値観も異なるダイバーシティー&インクルージョンという、多様な人材を受け入れてそれぞれの能力を発揮させる考え方が重要になってきます。エンジニアであれば、異なる経験と価値観を持った集まりが調和することで新しいものを創り出します。
つまり、多様性と専門性が掛け算になってイノベーションが生まれるという概念が生まれます。この概念を徹底的に実践しています。
宮本 その実践はとても難しいことだと思います。例えばどのようにチームを構成するのかですね。誰と誰を組み合わせて、どのくらいの所帯でワンチームにするのが適切なのか。多様な人たちが気持ちよく働ける組織づくりを行うためには、カルチャーの醸成の仕方も含めてどうすればよいのかをいつも悩んでいます。
平手 プロジェクトの規模にかかわらず、WhatとWhy、Whenとして、何をするのか、なぜやるのか、いつまでに達成するのかは一緒に決めます。しかしHowとしてどうやってやるのかは各人に任せます。つまり、どの山に登るか、なぜその山に登るのか、いつまでに頂上を目指すのかはみんなで決めますが、どのルートから登るのかは各人に任せているのです。
ここでこのルートで登れとか、こうやって登れと決められてしまうと、結局人からもらったアイデアはくれた人のベイビーなので、他人のベイビーは育てられないよという感覚になってしまうんです。しかし、自分のアイデアであれば、自分のベイビーなので、育てることを諦めません。