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『イノベーションのジレンマからの脱出 日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」誕生の軌跡に学ぶ』
『イノベーションのジレンマからの脱出 日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」誕生の軌跡に学ぶ』

 みんなの銀行の基幹システムは、クラウド上にフルスクラッチ開発されている。その開発はどのように進んだのか。『イノベーションのジレンマからの脱出 日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」誕生の軌跡に学ぶ』(日経BP、2023年)から抜粋し、SIerとして開発に参画したアクセンチュアの山根圭輔氏と4回にわたって経緯を振り返る。聞き手はみんなの銀行 執行役員CIO(最高情報責任者)の宮本昌明氏。今回は第1回。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部、本文中敬称略)

みんなの銀行 宮本昌明(以下、宮本) アクセンチュアさんが、勘定系システムをパブリッククラウドで、それもGoogle Cloudで構築しようと判断されたのはなぜですか?

「他社が絶対にできないことをやりたい」

アクセンチュア 山根氏(以下、山根) 永吉さん(編集部注:プロジェクトのリーダー、現・みんなの銀行 取締役頭取の永吉健一氏)と当社の森(森健太郎 ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ 銀行プラクティス 日本統括 マネジング・ディレクター)が「新しく銀行をゼロからつくれたらいいよね」といった話をしていたのが始まりだったと記憶しています。そのときに「どうせつくるならチャレンジャーバンクだよね」と。チャレンジャーバンクをつくるのであれば、既存の勘定系やパッケージでできるシステムではすぐにまねされてしまいますし、他社が絶対にできないことをやりたいよね、といった話になっていきました。

山根 圭輔 (やまね けいすけ)
山根 圭輔 (やまね けいすけ)
アクセンチュア テクノロジー コンサルティング本部 マネジング・ディレクター インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービスグループ共同統括 東工大生命理工学部卒、東大生化学専攻修士修了。エンタープライズ・アジャイルでDXを実現するSCRUMチーム集団、DevOpsやCloud、Data&AI、Application ModernizationなどのDigitalデリバリエンジニア・コンサルタントを集めた、テクノロジーアーキテクトグループ統括。主に金融業界でのSI開発やシステム刷新/合併・統合などの大規模プログラムにおけるプロジェクト・マネジメント分野を担当してきた。アクセンチュア・ジャパンのリード・テクノロジー・アーキテクトとして、様々なソリューションの開発~展開導入を行っている。(写真は本人提供)
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 そのときに立てたコンセプトの一部が「ハイパーパーソナライズ」や「つながるリアルタイム」「ボタンをポチっと押せば2時間で銀行ができるBaaS」などでした。これらのコンセプトを実現すれば、追随されないだろうと。

 とはいえ、やはり最初はパッケージでもできるのではないかと、探してみました。しかしさんざん探した揚げ句、これは無理だと。それならフルデジタルバンクみたいなものをつくっていくか、という話になり、この時点がデジタルバンク構想の具体化が始まったときだと思います。

宮本 そうだったんですね。

山根 はい、クラウドの前に、このような話がされていたのです。

宮本 確かにポチったら2時間で銀行ができる仕組みを構築できるなら、クラウドを選択するしかありませんよね。

山根 ただ「2時間で銀行をつくる」というのは私がキャッチーなテーマが欲しくて付けたフレーズで、永吉さんから言われたわけではありませんよ(笑)。