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『金融AI 成功パターン』
『金融AI 成功パターン』

 金融業務へのAI(人工知能)適用に関するノウハウを「パターン」として整理した『金融AI成功パターン』(日経BP、2023年)。著者の代表として、SBIホールディングスの佐藤市雄氏と、DataRobot Japanの小川幹雄氏に、金融機関におけるAI適用の現状や「金融AI成功パターン」の活用方法、本書の執筆動機などを聞いた。(聞き手は、日経BP 技術プロダクツユニット クロスメディア編集部 松山貴之)。

金融機関では、AI(人工知能)はどの程度使われているのでしょうか? 外からはあまり見えないのですが。

佐藤市雄氏(以下、佐藤氏):金融機関にとって最も大事なことは「信用」です。そのためにこれまでは、業務に人手をかけ、確実に間違いなく処理することを優先してきました。そうした業務にAIは向いているので、どんどんAIを使っています。「外からあまり見えない」のは、バックヤード業務への適用が多いからだと思います。コールセンターや不正検知などの業務では当たり前のようにAIを使っています。

佐藤 市雄 氏
佐藤 市雄 氏
SBIホールディングス 社長室ビッグデータ担当 次長/金融データ活用推進協会(FDUA)理事 兼 企画出版委員会 委員長 2007年にSBIホールディングスに新卒入社。2008年SBIポイントユニオン代表取締役に就任。2012年SBIグループ横断でのデータ活用推進組織設立を提案し、社長直下にビッグデータ専門組織を構築。2013年リーダーに就任し、SBIグループのデータ分析やAI開発に注力。(写真は本人提供)
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小川幹雄氏(以下、小川氏):AIはデータがなければ始まりませんが、金融機関にはたくさんのデータがあります。業務の性格上、保有しているデータは正確です。他業界では、競合サービスが大量に混在して利用されるのが一般的で、行動に対してのデータが分断されてしまいます。これに対し金融機関では、メイン口座、メインカードなど主軸となるサービスが決まることから、データが分断されて使いづらいということがあまりなく、AI適用しやすいデータが多いのです。

 たまに金融機関のお客様が「うちにはデータはない」とおっしゃることがありますが、金融機関は情報産業ですから、間違いなくデータはあります。しかも、金融機関は他の業界と比べてIT予算を比較的潤沢に組んでいるところが多いので、AI適用は進みやすいです。

 私は他の業界のお客様とも話をすることがあります。すると、他の業界では、PoC(概念実証)や実験的な利用、一部の業務に限定しての利用にAIがとどまっていることが多いためか、「AIは投資に見合った効果が出るの?」と聞かれることが多くあります。しかし、金融機関のお客様はAIに対してあまり「投資対効果」とはおっしゃらないです。それは、AIが成果を出すと分かっているからだと思います。

金融機関ではAI適用が進んでいることが分かりました。成果も出ているなら、金融AIは「やりがいのある仕事」だと思います。金融AIに携わりたい、その道に進みたいと思う人は多いのではありませんか?

佐藤氏:金融機関の中にいる人は、金融AIに携わりたいと思う人が増えていると思います。それは、いろいろな業務がAIを前提に大きく変化しているから、という側面もあると思います。AIを学ぶことでスキルアップしたい、というマインドなのだと思います。

小川氏:まだ少ないですが、別のケースもあります。AIスキルを身に付けているデータサイエンティストが、金融機関に転職するケースです。高度なデータサイエンススキルを身に付けた人が「金融機関には大量のデータがあって、おもしろそうなことができそうだ」と転身するのです。ただ、あまりうまくいかない話を聞きます。