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『金融AI 成功パターン』
『金融AI 成功パターン』

金融業務へのAI(人工知能)適用に関するノウハウを「パターン」として整理した『金融AI成功パターン』(日経BP、2023年)では、7つの基本パターンと、5つの上級パターンを紹介している。同書からさまざまな場面に適用できるノウハウとして、本連載では機械学習の基本とライフサイクルを取り上げ、連載の後半では「7つの基本パターンの概要」を抜粋して解説する。今回のテーマは「機械学習ライフサイクルの(1)テーマの決定」である。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)

 金融機関におけるビジネス的なAI活用では、教師あり学習を中心に考えていけば多くのテーマに対応することができますので、教師あり学習のライフサイクルを紹介します。教師あり学習のステップは、一般的に下記のような流れになります。

  • (1)テーマの決定
  • (2)学習データの準備
  • (3)モデリング
  • (4)精度評価
  • (5)機械学習モデル解釈
  • (6)デプロイ
  • (7)運用監視
  • (8)再学習・切り替え

 機械学習ライフサイクルの特殊性は、ウオーターフォール型(あらかじめプロセスを一気通貫で決める型)で進むのではなく、一定のフェーズで前のフェーズに戻るアジャイル型にあります。場合によっては最初のフェーズまで戻ることも少なくありません。特に(1)から(4)はアジャイル型の進め方でないと、まずうまくいきません。

 今回は(1)テーマの決定について、説明します。

 テーマの決定は、機械学習をどの領域で利用するかを検討するフェーズです。ビジネスインパクトがある(ビジネス的に取り掛かる価値がある)のか、実現可能性が高いプロジェクトなのかという部分でテーマを決定します。テーマが決定して初めてターゲットデータ(ターゲットデータは統計学では被説明変数と呼ばれる)の定義を決めることができます。

 機械学習をビジネスに適用する上で得られる価値、ビジネスインパクトの主なものは以下の4点です。

  • 精度の向上
  • 自動化率の向上
  • 意思決定時間の短縮
  • 適応範囲の拡大

 精度の向上に関しては、既存手法によって伸び代が違います。一般的には、既存の手法も統計モデルなど機械学習に類似する手法であれば0~5%、ルールベースであれば5~10%、経験と勘によるものであれば10~20%あるいはそれ以上の伸び代を期待できます。対象となる件数や1件当たりの金額が大きい場合には必然的にビジネスインパクトが大きくなります。

 自動化率は既存プロセスにおける曖昧な判断や例外の多さによって違いますが、少なくとも30%程度、相性の良いときには90%程度自動化できる可能性があります。こちらは自動化する前のプロセスにかかっていたコストが大きいほどビジネスインパクトが大きくなります。

 意思決定時間の短縮や適応範囲の拡大は、数値でビジネスインパクトに変換することは難しいですが、ビジネスプロセスを根本的に変えることにもつながるために重要です。あえて効果を計測するのであれば、そのビジネス全体がどれだけの経済効果を持つものなのかを算出し、その中で機械学習が貢献する割合を計算するとよいでしょう。

 また、状況によっては、専門家への依頼コストを低減することもできます。