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『ITIL 4ファンデーション試験対策』
『ITIL 4ファンデーション試験対策』

 世界で最も広く採用されているサービスマネジメントのガイダンス「ITIL」。その最新バージョンである「ITIL 4」は「ITを使ってどのようにしてビジネスをつくるか」という「ビジネス目線」で大幅に刷新され、DX(デジタルトランスフォーメーション)のためのガイダンスに生まれ変わった。本連載では、『ITIL 4ファンデーション試験対策』(日経BP)を執筆したNTTデータ先端技術の武山祐氏のチームメンバーが、「ITIL 4の変更点」を紹介しつつ、ITIL 4と「セキュリティー」「サステナビリティー」との関係性について紹介する。今回は「ITIL 4の変更点」をまとめる。

 ITIL(旧来の呼称はInformation Technology Infrastructure Library注1))とはサービスマネジメントに関して、世界で最も広く採用されているガイダンスです。ITサービスを中心に、「IPAのITサービスマネージャ試験」「ISO20000シリーズ」「各種ITSM(ITサービスマネジメント)ツール」など、様々な資格や規格、製品のベースとなっているものです。

注1) 現在のITILは「ITインフラストラクチャの書籍群」ではないため、「Information Technology Infrastructure Library」の呼称を使わないことが正式に決まっています。

 ITILは、1989年に「v1」が誕生し、1998年(正確には1998年から2004年にかけてつくられました)に「v2」、2007年に「v3」、2011年に「v3」のマイナーアップデートバージョンである「2011 Edition」、そして2019年の「4」というように、約10年ごとにバージョンアップされてきました(図1)。

図1 ITILの変遷
図1 ITILの変遷
(出所:『ITIL 4ファンデーション試験対策』)
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 ここでは「ITIL 4」の以前のバージョンとの違いを「①IT目線からビジネス目線へ」「②価値提供から価値共創へ」「③ライフサイクルからバリューチェーンへ」という3つに分類してお伝えします。なお、ここで紹介する内容はITILの公式見解ではなく、筆者の見解が含まれることをご承知おきください。

①IT目線からビジネス目線へ、DX推進にコミット

 以前のバージョンのITILは、「ビジネスの要望を、どのようにしてITで実現するか」という「IT目線」でした注2)。これが、「ITIL 4」では、「ITを使って、どのようにしてビジネスをつくるか」という「ビジネス目線」に変化しました(図2)。

注2) 以前のバージョンのITILも、組織のビジネス全体をカバーするものを目指してつくられていました。しかし、日本ではITILは運用標準として広まったという経緯があり「ビジネスの要望をITで実現する」という傾向が特に色濃くなってしまいました。
図2 IT目線からビジネス目線へ
図2 IT目線からビジネス目線へ
(出所:『ITIL 4ファンデーション試験対策』)
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 具体的には、「ITIL 4」では、「ビジネス目線」で外的要因を分析するために「PESTLE」というフレームワークが含まれるようになり、「従うべき原則」という組織を導く指針が採用されました。さらに、「サービスブループリントやカスタマージャーニー」を用いてサービス消費者にとっての価値を考える手法が紹介されるようになり、「IT目線」ではなく、「ビジネス目線」でサービスをマネジメントするという考え方がより強調されるようになりました。

②価値提供から価値共創へ、サービス消費者と「共に」「創る」関係性

 以前のバージョンのITILは、『サービス・プロバイダーは、サービス消費者に対して価値を提供する』という考え方がベースにありました注3)。これが、『「ITIL 4」では「共創」というキーワードが頻出し、サービス・プロバイダーとサービス消費者は価値を「共に」「創る」関係性であるべきである』という考え方が明示されるようになりました(図3)。

注3)以前のバージョンのITILにも、事業関係管理やサービスポートフォリオ管理などを通して顧客と共に価値を定義するためのプロセス自体はありましたが、「共創」と明記されるようになったのはITIL 4からです。
図3 価値提供から価値共創へ
図3 価値提供から価値共創へ
(出所:『ITIL 4ファンデーション試験対策』)
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 具体的には、サービスの定義や、サービス・バリュー・システムの目的などに「共創」という考え方が登場します。

③ライフサイクルからバリューチェーンへ、アジャイル、リーンを推奨

 「ライフサイクル」とはITサービスマネジメントの段階を「戦略」「設計」「移行」「運用」「継続的改善」という5段階に分類し、それぞれの段階で適切な対応をするという考え方です。以前のバージョンまではITILと言えば「ライフサイクル」と言われるほど、「ライフサイクル」はITILを象徴するものでした。これが、「ITIL 4」では「ライフサイクル」から、柔軟性が高く自由に組み立て可能な「バリューチェーン」という考え方に変化しました(図4)。

図4 ライフサイクルからバリューチェーンへ
図4 ライフサイクルからバリューチェーンへ
(出所:『ITIL 4ファンデーション試験対策』)
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 具体的には、最新技術やアジャイル、リーンといった考え方を柔軟に取り入れることが推奨され、これらの技術や考え方で「ライフサイクル」にとらわれない「バリューチェーン」の最適化が推奨されています。

 紹介した3つの変化を正確に理解し、変化に追従することが重要です。次に、この変化が生まれた理由を解説します。