「データ分析組織をつくったが成果が出ない」――。こうした悩みを解決する書が、『ビジネストランスレーター データ分析を成果につなげる最強のビジネス思考術』(日経BP、2023年)である。同書の著者代表として三井住友海上火災保険の山田紘史氏と佐藤祐規氏に、昨今のデータサイエンティストと、データ分析現場の実情について聞いた。(聞き手は、日経BP 技術プロダクツユニット クロスメディア編集部 松山貴之)
「データサイエンティスト」は企業が奪い合いをするほどの人気人材です。山田さんは複数企業を見てきたとうかがいましたので、その経験から教えていただきたいのですが、企業に入ったデータサイエンティストは、期待した成果を出しているのでしょうか?
山田紘史氏(以下、山田氏):二極化していると思います。高度なスキルを駆使して例えば、ビジネス課題抽出をして経営層と対等に議論をしたり、EC(電子商取引)サイトでのレコメンドロジックの見直しをしてコンバージョン率を劇的に上げたりなど、見事な成果を出している人がいる一方で、企業に入ってなかなか成果を出せずに集計作業者に徹してしまっている人もいると思います。

ちゃんと調べたわけではありませんが、大きな成果を出せているのは1~2割ではないでしょうか。
感覚値とはいえ、なかなか衝撃的ですね。企業側からすれば三顧の礼で迎えたのに、期待通りにはいかなかった。佐藤さんはどのように見ていますか?
佐藤祐規氏(以下、佐藤氏):私も同じように感じています。ただ、誤解がないようにしておきたいのですが、大きな成果を出せていない人の「データ分析能力」が低いわけではありません。高いデータ分析能力を持っているにもかかわらず、能力を発揮できないでいるのです。
能力が低いわけではないのに、なぜそんなことになってしまうのでしょうか?
山田氏:理由はいくつもあると思います。典型的なケースを紹介します。
データサイエンティストによっては「何をしてほしいかを言ってくれたらその通りに結果を出します」という姿勢の人がいます。これではうまくいくはずがないのはすぐに分かりますよね。「データ分析」という領域にこもってしまい、「ビジネス」に向き合っていません。
ただそうした人も最初からそうした姿勢ではなかったと思います。転職した先の企業内にあるデータを集めて独自に分析し、その結果をビジネス担当者に見せて、「分析したらこういう結果が出ました。これはすごい発見です」といった提案をしていたと思われます。でもおそらく、見向きされなかったのではないでしょうか。なぜなら、ビジネスを知らない人が持ってきた分析結果や考察は、ビジネスを知っている人からすると現場では周知のノウハウだったり現場の制約を理解していなかったり、素人意見と捉えられがちで、説得力に乏しいからです。
佐藤氏:こうした経験を重ねたデータサイエンティストは、ビジネスを“こわい”と感じているようです。担当者に怒られるとかそういうことではなくて、人は分からない領域に踏み込むことに恐れを抱きますよね、それに通ずる感覚だと思います。一生懸命やっても評価されることもなく、自分の経験やスキルではどうしようもできないもの、そうしたものには近づきたくない、と思っているのです。
データサイエンティストは頑張っているのに認められず、次第に「守り」に入ってしまうということですね。
山田氏:問題はデータサイエンティスト側だけでなく、データサイエンティストと一緒になってビジネス課題を解決していくビジネス担当者側にもあると思います。
まず、データサイエンティストを魔法使いのように見ることがあります。データから魔法のようにすごい発見をもたらしてくれるとか、期待し過ぎです。そこまでではなくても、「データサイエンティストは専門家だから」と遠慮してしまうケースがあります。遠慮していては課題解決などできるはずがありません。実施可能な打ち手を考慮しながら、課題解決するための仮説を立案して、検証するという作業を繰り返していく必要があります。