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 三越伊勢丹がデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを加速させている。オンライン接客「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」や、3D計測による靴の提案「YourFIT365」など、デジタル技術を駆使したサービスを矢継ぎ早に繰り出してきた。注目すべきは開発スピードだ。前述した2サービスのシステムの初期開発に要した期間は前者が4カ月、後者は3カ月という短さである。

 この開発スピードは一朝一夕では手に入らない。「従来はどんなシステムの開発も一声1年かかるという状態だった」。IT子会社である三越伊勢丹システム・ソリューションズの竹前千草ICTプラットフォーム部 ビジネスプラットフォーム第1担当長は“加速以前”をこう振り返る。

 開発スピードが上がらない原因の1つはアプリ、インフラ、運用と3チームに分かれていた推進体制にあった。「開発チームからインフラ構築や運用監視などの作業を依頼するために多くの資料を作る必要があるなど、コミュニケーションコストが高かった」(竹前担当長)。

 課題を解決しようと、開発チームが自律的にインフラを構築したり運用設計を行ったりする「DevOpsチーム」になった。もちろんDevOpsチームをつくっただけでうまく機能するわけではない。DevOpsをきちんと回すには、新たなIT基盤の構築も必要だった。

「DevOps環境」と「ビジネスプラットフォーム(BPF)」の概要
「DevOps環境」と「ビジネスプラットフォーム(BPF)」の概要
(出所:三越伊勢丹の資料を基に日経クロステック作成)
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 2020年に第1弾をリリースした新たなIT基盤は、開発・運用環境である「DevOps環境」、基幹システムとの連携を担う「ビジネスプラットフォーム(BPF)」の2つから成る。

 DevOps環境はパブリッククラウドである「Microsoft Azure」と「AWS(Amazon Web Services)」のサービスを使い、それぞれのクラウド上に開発・運用環境を用意。利用マニュアルや運用ガイドラインなどと一体で整備した。アプリのビルドやテスト、デプロイといった一連の開発手順を管理する「CI(継続的インテグレーション)/CD(継続的デリバリー)パイプライン」はAzureのサービスを使っている。2021年6月時点ではAzureとAWSを比較するために試している段階であり、明確な使い分けの指針はない。

 アプリの開発、実行環境はコンテナで統一している。コンテナ管理にはクラウド事業者が運用を部分的に代行するマネージドサービスを利用する。Azureは「Azure Container Registry」、AWSは「Amazon Elastic Container Registry」である。AzureとAWSはどちらもオープンソースソフトのコンテナ管理ツール「Kubernetes」のマネージドサービスを用意するが、使っていない。三越伊勢丹グループのDX戦略企業であるIM Digital Labの取締役で、グロース・アーキテクチャ&チームスの社長を務める鈴木雄介氏は「Kubernetesはまだ早い。もう少し成熟してきたら導入を考える」と話す。

 「コンテナ化により、必要なときに立ち上げて処理が終わったら落としたり、夜間バッチ時はスケールアップさせたりするなど、DevOpsチームが自主的にコスト最適化を考えるようになった」。竹前担当長はコンテナ導入の効果の1つをこう話す。

 クラウドならではのサービスも活用している。例えばAWSのイベント駆動型コード実行サービス「AWS Lambda」を使い、オブジェクトストレージ「Amazon S3」にデータが投入されたら、処理用のコンテナを立ち上げる。ただし「Lambdaはシステム間連携やAWSのサービスをキックするなどの用途には活用するが、業務ロジックはなるべく乗せない方針」(鈴木氏)という。