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D2Cによるディスラプトで大手が破産する事例も

 以上のようなD2Cの特徴を生かした代表的な企業として、米国で2014年に創業したマットレス販売のスタートアップ「Casper Sleep(キャスパースリープ、以下Casper)」の事例を見てみよう。マットレス最大手の米Mattress Firm(マットレスファーム)がCasperにシェアを奪われ、破産にまで追い込まれたケースである。

 Casperはオンラインで競合他社より圧倒的に安価なマットレスを販売するだけでなく、「上質な睡眠」を提供するというコンセプトを打ち出し、その世界観を様々な媒体で顧客に広めた。例えば睡眠特集を組んだ雑誌の発刊、ポッドキャストによる睡眠関連情報の配信、さらには街中に昼寝専用スペースを開設するなど、個性的な取り組みで消費者の心をつかんでいった。近年はベッドシーツなどの小物や寝室用の照明といった、睡眠をサポートするマットレス以外の商品も手掛けている。

 データ分析などの技術を、積極的にビジネスに活用している点もCasperの特徴だ。従来の小売りビジネスのように「商品を売ったら終わり」にするのではなく、消費者と継続的な接点を保ち、そこで取得したデータを商品の改善に生かしている。例えばCasperは、専用のセンサーを使って1万5000人以上のモニターユーザーから睡眠データを取得している。このデータを専門部隊が解析し、どうすれば睡眠の質が改善するのかを科学的に検証し、マットレスなどの商品に反映するのだ。業界大手を抑えて急成長を遂げたCasperは、2019年にはユニコーン企業の仲間入りを果たしている。

 日本よりもD2Cビジネスの拡大が先行した米国では2000年代以降、Casperのようなスタートアップが大手をしのぐ勢いで成長し、既存業界をディスラプト(破壊)する事例が出てきた。一時はこうしたスモールスタートのスタートアップがD2Cの代名詞のように捉えられていた向きもあるが、近年は大手企業がD2Cに取り組む事例も出ている。

 世界的なスポーツブランドの米Nike(ナイキ)は、2017年に「Triple Double Strategy(2X)」という成長戦略を宣言し、「イノベーションの影響力、商品の市場への投入速度、顧客との直接的つながりをそれぞれ2倍にする」との目標を掲げてデジタル化を推進してきた。3点目の「顧客との直接的なつながり」は、まさにD2Cの本質の1つと言える。

 同社は2017年、今後は約3万のリテールパートナーから絞り込んだ約40社の販路に注力すると発表。2019年には米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)上のナイキ直営サイトを通じた自社製品の販売も打ち切った。その一方で、自社のアプリケーションやオンラインサービスを通じたD2C事業を強化している。同社の取り組みは、大手企業のD2C推進の代表例として引き続き注目されている。

臼田 慎輔(うすだ しんすけ)
野村総合研究所 コンサルティング事業本部 事業DXコンサルティング部 グループマネージャー
臼田 慎輔(うすだ しんすけ) 2006年、東京工業大学生命理工学研究科卒業、野村総合研究所入社。製造業、小売業などの企業に対して事業戦略策定、営業改革、新規事業開発等を支援するコンサルティング案件に従事。直近はDXの構想策定、実行支援のプロジェクトを中心に活動。
福田 李成(ふくだ りせい)
野村総合研究所 コンサルティング事業本部 事業DXコンサルティング部 コンサルタント
福田 李成(ふくだ りせい) 2018年、慶応義塾大学環境情報学部卒業、野村総合研究所入社。通信、放送、教育などの業界を中心とした企業に対して、データアナリティクスを活用した経営、事業、業務の高度化に関するコンサルティング案件に従事。直近は、企業のCX戦略に関する構想/KPI策定、実行支援領域のプロジェクトを中心に活動。
中島 将貴(なかじま まさたか)
野村総合研究所 コンサルティング事業本部 事業DXコンサルティング部 主任コンサルタント
中島 将貴(なかじま まさたか) 2008年、早稲田大学政治経済学部卒業、野村総合研究所入社。マーケティング戦略の策定支援、新規事業企画、ビジネスデューデリジェンスなどの取り組みの他、シェアードサービスセンター設立やマイナンバー対応支援といった業務改革など、幅広いテーマのコンサルティングに従事。近年はD2C、データサイエンス、AIなどといったデジタルトランスフォーメーション関連の活動に注力。2019年、米国エモリー大学ゴイズエタビジネススクールMBA修了。