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 技術の発達に伴い、様々な業界で従来の手法を変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)の動きが活発になってきた。その中で、企業と消費者の関係性や商品の売り方を大きく変えようとしているビジネスモデルがD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)だ。D2Cの本質はデジタルの力を使って顧客の購買プロセス、購買経験を変革すること。D2Cにはテクノロジーも深く関わるため、DX時代のビジネストレンドとして、エンジニア視点からもD2Cの概要を知っておきたい。

 本特集の前回記事では主に米国の事例を挙げてD2Cを解説したが、日本では少し状況が異なる。今回は米国でD2Cが隆盛した背景を紹介しつつ、日本との違いを3点に分けて見ていこう。併せて、日本におけるD2Cの可能性も分析する。

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日米で違う起業への意識

 米国でD2Cビジネスが先行した背景であり、日本と大きく違うポイントの1つめは起業に対する関心の高さだ。日本の中小企業庁が2017年に公開した「2017年版 中小企業白書」では、「周囲に起業家がいる」「周囲に起業に有利な機会がある」「起業するために必要な知識、能力、経験がある」の3項目に「該当しない」と回答した人を「起業無関心者」と定義し、国別にその割合を整理している。米国での「企業無関心者」は22.9%なのに対し、日本では77.3%に及ぶ。米国は日本に比べ、起業への意識が高いことが分かる。

 2つめの違いは消費者の価値観だ。例えば、米国でのD2Cのメインターゲットはミレニアル世代である。1981年から1996年生まれのミレニアル世代には、「こだわりを持って消費をしたいが、価格も重視したい」傾向がある。調査会社の英Euromonitor(ユーロモニター)の調査「Lifestyles Survey 2020」によれば、日本の同世代よりも米国の同世代の方が環境問題などに関心が高く、エシカル(倫理的)な消費を好む。一方で、米国の同世代はバーゲンセールを好む割合も高い。これは米国では教育水準が高い一方で、学生ローンでまとまった借金を若いうちから背負っている人が多いといった背景がありそうだ。

 3つめの違いは市場環境だ。Euromonitorの同調査では「有名な、あるいは確立されたブランド」を常に求めるミレニアル世代の割合が米国では25%に上る一方、日本の同世代は7%にとどまっている。米国では日本と比較して、有名ではないブランドや非ブランド商品に対する信頼感が薄い可能性がある。従来、米国の消費者には「良い商品は高く、安いものは品質も"チープ"」という実感があったのだろう。

 D2C企業は、こうした米国市場に「こだわりの世界観をうたってファンの信頼を集めつつ、ややニッチな商材を安価に販売する」ことで成功を収めたのである。一方、日本においては品質の良い商品を安価に提供する企業が、既に一般に浸透している。良品計画が展開する「無印良品」や、ユニクロなどはその代表格だ。

 また、日本には「気に入ったものにはそれなりの対価を払う」消費者も一定数存在する。筆者が勤務する野村総合研究所(NRI)の「生活者1万人アンケート調査(8回目)」(2018年)では、自身の消費スタイルに対し「自分が気に入った付加価値には対価を払う」と回答した「プレミアム消費」タイプが全体の22%に及んだ。2000年の同調査では「プレミアム消費」タイプが13%だったのを見ると、こうした消費者は年々少しずつ増えていることが分かる。