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 技術の発達に伴い、様々な業界で従来の手法を変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)の動きが活発になってきた。その中で、企業と消費者の関係性や商品の売り方を大きく変えようとしているビジネスモデルがD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)だ。D2Cの本質はデジタルの力を使って顧客の購買プロセス、購買経験を変革すること。D2Cにはテクノロジーも深く関わるため、DX時代のビジネストレンドとして、エンジニア視点からも概要を知っておきたい。

 本特集の前回記事ではD2Cの概要や日米の市場環境の違い、日本市場における展望を述べた。今回は、D2Cが目指す「顧客の購買プロセスを変革する」とはどういうことなのか、もう少し詳しく見ていこう。これを理解しておくと、企業がD2Cビジネスを手掛ける際の全体像をつかみやすくなる。

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デジタル技術でマーケティングの最適解が変化

 D2Cにおいて顧客の購買プロセスに対する企業の関与が従来とどう変わるのか、ここでは幅広く普及しているマーケティングのフレームワーク(枠組み)である「STP」と「4P」を使って解説する。マーケティングというとエンジニアとは関わりが薄いと思うかもしれないが、実際はそうではない。マーケティングとは、売れる仕組みを作り上げることである。技術を生かしつつ、いかに売れる商品を開発するかという視点はエンジニアにも役に立つ。また、D2Cではマーケティングの過程で、データ分析をはじめとする様々な技術が必要となる。マーケティングと技術、エンジニアとの相互理解は今後ますます重要になっていくはずだ。

 STPは「Segmentation」「Targeting」「Positioning」の略。どんな市場で(Segmentation)、どんな人に(Targeting)、どんな位置づけの商品を提供するか(Positioning)を検討する。4Pは「Product」「Price」「Place」「Promotion」の略。STPの結果を受けつつ、どんな商品を(Product)、いくらで(Price)、どこで(Place)売るのか、その商品やサービスをいかに消費者に知ってもらうか(Promotion)を考える手法である。このSTP、4Pの一連の流れが、デジタル技術の発展以前・以降で大きく変わっている。デジタル技術を活用するD2CにおいてのSTP、4Pと、従来手法との違いを順番に見ていこう。

デジタル技術によるマーケティング手法の変化
デジタル技術によるマーケティング手法の変化
出所:野村総合研究所
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 まずSTPに関しては、従来は消費者を「年齢」「性別」「所得」といった属性やライフスタイル、ニーズなどの傾向によってセグメント分けし、その中から1つをターゲットとして定める(ターゲティングする)のが一般的だった。このとき、ターゲットとなるのは大まかに同じ属性や傾向を持つ消費者の集合である。企業は、このようにある程度「ざっくり」とした消費者の集合に向けて商品のポジショニングを決め、企画・開発を進めていた。当然、同じセグメント、ターゲット内の消費者には個人単位で固有の特徴があるため、同じ商品を同じようにマーケティングしても全ての人に強く訴求するとは限らない。

 大まかなセグメント、ターゲットを使わざるを得なかったのは、従来はユーザー調査を実施し、収集したデータを分析するのに膨大なコストや工数がかかったためである。顧客1人ひとりの情報を把握し、その分析結果に従って個人単位で購買プロセスを最適化するのは現実的ではなかった。

 例えば化粧品メーカーを想定して考えてみよう。以前は「30代の働く女性」「自然なファッションとメークを好む」といったターゲット層を想定して商品を開発し、小売店などを経由して販売していた。一方で、消費者には「より透明感のある肌にしたい」「あっさりした付け心地がよい」「値段は5000円以内」などそれぞれ細分化したニーズがあり、しかもこのニーズは時とともに変化する可能性がある。消費者は、メーカーが大まかなターゲット層を対象に開発した商品群の中から、メディアの情報や店頭での印象を基にその時点における自身の細分化したニーズを満たすものを探す必要があった。

 現在ではデジタル技術とそれを生かしたソリューションが発展したため、企業は顧客と幅広い接点を持ち、様々なデータを収集できる。

 先ほどの化粧品メーカーを想定した例で考えてみよう。D2Cでは小売店を介さず、顧客に直接商品を届けられる。そのため、化粧品を販売するWebサイトやアプリケーションには、顧客の属性情報や購入履歴、アクセス時の流入経路・操作履歴などのデータが蓄積していく。機械学習を使ってデータを分析すれば、顧客の購入に寄与する要素は何かを調べることも可能だ。データ分析によって改善すべき点が明らかになったら、今後の商品改良に生かしたり、Webサイトやアプリケーションを改修したり、マーケティング施策を変更したりすればよい。購入後・使用後にオンラインアンケートを実施すれば、顧客の満足度や不満点も把握できる。顧客のニーズの変化に応じて、適切な商品を随時レコメンドすることもできるだろう。こうした一連のPDCAの流れを、デジタル技術によって素早く短期間で繰り返すことが可能になった。