全2884文字
PR

 D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)はデジタル技術を用いて、従来の企業と消費者の関係性や商品の売り方を大きく変えていくビジネスモデルである。その本質はデジタルの力を使って顧客の購買プロセス、購買経験を変革すること。D2Cにはテクノロジーも深く関わるため、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代のビジネストレンドとして、エンジニア視点からもD2Cを理解しておこう。

 国内のD2C事例を紹介した前回に続いて、技術の活用方法やビジネスモデルに特徴のある海外の事例を見ていこう。D2Cは従来の単純なオンライン通販と比べ、以下のような特徴を備える。この特徴を生かしたり、欠点を補ったりするためにAR(拡張現実)などの最新技術を活用する事例と、サブスクリプションサービスと買い切りの商品を組み合わせた「SaaS Plus a Box」モデルの事例を順に紹介する。

〔A〕テクノロジーを駆使した購買プロセスや商品の最適化
〔B〕オンライン直販による中間コスト削減
〔C〕サービスコンセプトを顧客と共有し、共感を呼ぶ

サンプル商品の配送からARへと試着方法も進化

 D2Cではオンライン販売をメインとするサービスが多い。オンライン販売には場所を問わずどこからでも購入できる、コストが安くなるといったメリットがある一方で、商品の実物に触れる機会はない。そのためD2Cではオンライン購買体験をいかに現実の店舗に近づけ、ともすれば上回れるかが課題となる。この課題に対処するため、ファッションアイテムなどを中心にARを活用して仮想的な試用を実現するD2Cサービスが増えている。「〔A〕テクノロジーを駆使した購買プロセスや商品の最適化」と、「〔B〕オンライン直販による中間コスト削減」の両立を図るわけだ。

 ARの導入が進んでいる背景には、深度カメラなど関連技術の進化もある。例えばiPhone Xで搭載された「TrueDepthカメラシステム」は3万個の赤外線ドットを顔面にメッシュ状に投影し、顔の3Dモデルを作成できる。この技術はiPhoneの顔認証システム「Face ID」でも利用されている。

 TrueDepthカメラシステムを取り入れたD2Cサービスの1つに、米Warby Parker(ワービーパーカー)がある。ワービーパーカーは2010年に創業したメガネの販売サービス。2020年度の純売上高は3億9370万ドル(約447億円)に上り、史上最も成功したオンラインブランドとも呼ばれる。

 同社が2019年から導入したのがARによる仮想試着サービス「Virtual Try-On」だ。ARを活用し、専用アプリケーション上でバーチャル試着ができる。TrueDepthカメラシステムを使うため、iPhone X以降が必要だ。

 試着したい場合は、アプリ上で好みのメガネを選択してから画面を下方向にスワイプすればよい。iPhone画面上にメガネを掛けた状態の顧客の顔が投影される。細部まで再現されたメガネの3Dモデルは、顔を左右上下に動かしてもずれない。顧客は自身の顔の形や雰囲気にメガネが合っているか、気軽に確認できる。

[画像のクリックで拡大表示]
米Warby Parkerのアプリケーションが備えるAR試着機能「Virtual Try-On」
米Warby Parkerのアプリケーションが備えるAR試着機能「Virtual Try-On」
(出所:Warby Parker)
[画像のクリックで拡大表示]

 なおワービーパーカーは創業当初から、「Home Try-On」という特徴的な試着システムを備えていた。顧客が試着したいメガネをオンラインで選ぶと、商品が自宅に配送されて試用できる仕組みだ。試用可能な商品は5品までで、配送・返送は無料。顧客はオンラインで気になった商品を自宅でじっくり比較・検討してから購入できる。

 メガネを試着した写真を撮影し、特定のハッシュタグを付けてSNS上へ投稿すると、専属スタッフから「似合っているか」などのアドバイスも受けられる。このように同社はもともと現実の店舗に近い顧客とのコミュニケーションを志向していたが、それがARの導入でいっそう手軽に実現可能になった。

 ワービーパーカーが手掛けるメガネ以外にも、化粧品メーカーが製品の試用に利用するなど、TrueDepthカメラシステムを使ったD2Cサービスは続々と増えている。