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 政府が「経済安全保障」の強化にかじを切る。毎年公表する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」において、2021年6月18日に閣議決定された最新版で初めて「経済安全保障を確保する」と明記。技術流出の防止や重要物資のサプライチェーン強化など多数の政策を打ち出した。想定するのは主に中国関連リスクとみられている。

 しかし情報通信分野で企業に影響する政策にはほとんど具体的な言及がなかった。特に、LINE問題で関心が高まった「個人データの越境移転」についての政策転換が注目されたが、全く触れられていなかった。特定の海外拠点や海外におけるITの利用にどのようなリスクがあり、企業はどう対処すべきか。政府が今後、具体的に示せるかどうかは不透明だ。

「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の案をまとめた経済財政諮問会議・成長戦略会議の合同会議。議長は菅義偉首相
「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の案をまとめた経済財政諮問会議・成長戦略会議の合同会議。議長は菅義偉首相
(出所:首相官邸)
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 そもそも政府は経済安全保障の強化を打ち出しながら、骨太の方針を含めて各種政策において「中国」を具体的なリスクとして挙げることはまずない。背景には中国との通商や外交関係を維持しながらリスクに対処する難しさがある。加えて、中国拠点や中国メーカーの製品にどのようなリスクがあるかを具体的に示せないという、「中国リスク」のそもそもの曖昧さもある。

 現時点で、経済安全保障によって日本企業の国内外におけるITやデータの利活用に規制が強まる動きはない。企業は政府の政策動向を静観しながら、自主的にセキュリティー対策に取り組む段階が続きそうだ。

通信・電力などインフラ企業には新たなリスク対策

 政府が最新版の骨太の方針に盛り込んだ、経済安全保障の強化に関する政策は多岐にわたる。例えばサプライチェーンでは半導体や医薬品など4分野を重点対象に指定。国の資金を投入して、国内供給の強化や代替調達の体制づくりを支援する。先端的な重要技術は流出防止の対策を強化するほか、国が資金を手当てして技術開発を支援するともした。

骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2021)に盛り込まれた経済安全保障を強化する政策
骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2021)に盛り込まれた経済安全保障を強化する政策
(出所:首相官邸)
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 これに対して、情報通信分野に関わる政策は限定的だ。ほぼ唯一盛り込まれたのは、通信や電力、金融などインフラ企業が使うIT機器などに関する対策である。インフラ企業が使う機器やシステムのほかITに関わる業務受託や業務提携は、「リスクに対処するための所要の措置を講ずるべく検討を進める」とした。

 ただし中国企業を念頭に、海外製のIT製品の利用を規制するといった強固な政策は「全く決まっていない」(政府関係者)。骨太の方針を踏まえて法制度が整ったとしても、既にインフラ企業に課せられている既存のセキュリティー対策を踏襲した内容にとどまる可能性もある。一般企業に影響が大きい個人データの越境移転も、国内へのデータ回帰を後押しする政策や、特定国への移転規制強化などは示されなかった。

 課題として浮かび上がるのは、具体的な中国リスクを曖昧にしたまま、経済安全保障を掲げて、データ越境移転やIT利用に規制をかける難しさだ。

 一部の特定産業に限れば、政府が「中国」や特定のメーカーを明記することなく、事実上、日本で中国製品の利用を阻んだ前例はある。2020年春に商用サービスが始まった5G(第5世代移動通信システム)の基地局設備である。