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 熱から無限に動作する永久機関が実現するとさえ感じる室温での熱発電技術は、既存の無線通信技術や太陽電池技術の延長、あるいは潮力発電技術に似た技術で自然に実現している。一方で、永久機関を禁じる熱力学の常識から「なぜこれで発電できるのか」と数年間悩んだ研究者もいたようだ。日本を含む世界の開発例を具体的に紹介する。

 ここから具体的に、開発された技術をみてみよう。上述の(1)の黒体輻射を収穫する技術を開発したのは、米University of Colorado、Boulder校の研究者だ(図42)

黒体輻射=絶対温度がゼロでない物体または空間が放射する電磁波。太陽光自体がそうである。その熱輻射量は絶対温度Tの4乗(T4)に比例する。幅広い周波数の電磁波を含むがそのピーク波長は、Tに反比例する。

RTDで遠赤外線を“受信”

 共鳴トンネルダイオード(RTD)というタイプのダイオードを利用し、無線通信技術の延長として赤外線を“受信”するというのが基本的な発想である。

(a)波長10.6μmの遠赤外線を効率よく収穫
(a)波長10.6μmの遠赤外線を効率よく収穫
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(b)既存のRTDはバイアス電圧の印可時にトンネル電流が流れる
(b)既存のRTDはバイアス電圧の印可時にトンネル電流が流れる
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(c)新しいRTDではバイアス電圧0でも大きな電流が流れる
(c)新しいRTDではバイアス電圧0でも大きな電流が流れる
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図4 バイアスゼロで動くダイオードで遠赤外線を電力に変換
波長10.6µm、周波数28.3THzの遠赤外線(テラヘルツ波)を5.1%という従来の100倍以上の効率で電流に変換する共鳴トンネルダイオード(RTD)型レクテナ(アンテナと整流素子)のSEM写真(a)。RTDはこれまではバイアス電圧を印可して初めてトンネル電流が流れる素子だった(b)。University of Colorado、Boulder校(UC Boulder)の研究者は、バイアス電圧がほぼゼロの場合に、電圧印可時に相当する量子井戸構造を再現したRTDを作製した(c)。RTDの量子井戸は2種類の酸化物材料で構成する。これで、特定波長の遠赤外線を電力に変換することが可能になった。(写真:UC Boulder Moddel lab、図:(b)はNTT技術ジャーナル、2011年7月号、p.11の図1より引用、(c)はUC Boulderの論文1)より引用)

 RTDはポテンシャル障壁で構成した量子井戸にバイアス電圧を印可することで電流を制御する技術。応答性が非常に高いという特徴があり、これまでにも、周波数が0.3THz程度のテラヘルツ波の送受信用に開発されたことがある。

 今回のRTDのポイントは大きく3つ。(i)約30THzというこれまでにない超高速応答が可能なRTDである、(ii)バイアス電圧がほぼゼロでもそのテラヘルツ波を高効率に受信できる、(iii)量子井戸が比較的安価な酸化物で構成される、である。

 (i)の30THzの電磁波は、波長が約10µmで遠赤外線とも呼ばれる注2)。この周波数に対応するには高速応答を維持しながら、アンテナを含む素子の寸法を大幅に小型化する必要があった。

注2)波長10µmの遠赤外線が輻射のピーク波長となる温度は約290K(約17℃)である。

 (ii)について従来のRTDは、バイアス電圧を印可してちょうど共鳴準位が電流の入力側の準位(エミッター準位)と一致した場合に電流が流れる仕組みだった。今回は、ゼロバイアスでちょうどそれが実現するように量子井戸を設計した。

 (iii)の量子井戸について従来のRTDの多くではIII-V族と呼ばれるガリウムヒ素(GaAs)などの化合物の積層で作製していた。今回はそれを、酸化ニッケル(NiO)と酸化アルミニウム(Al2O3)で実現した。化合物製に比べると大幅に安価に造れる可能性が高い。

 この素子の、波長10µmかつ特定の偏波の遠赤外線に対する電流変換効率は約5.1%。ただし、偏波依存性が高い上に熱輻射全体に対しての効率はまだ低い。実用化するには、“受光帯域幅”を大幅に広げる必要がありそうだ。