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 国内だけで10兆円を超えるとされる医療用医薬品市場にはAI(人工知能)を活用する余地が大きく、「すご腕」のAI企業が続々と参入している。一口に創薬支援AI技術といっても多様な開発企業が活躍しており、そのサービス内容も様々だ。各社は得意技術に磨きをかけ、競合他社との差異化を急いでいる。

 多様なプレーヤーや技術がひしめく創薬支援AI市場を概観するには、創薬プロセスのどの部分を、どんな技術で支援しているのかを把握することが必要だ。創薬研究は主に、(1)創薬ターゲットの探索、(2)薬候補化合物の設計、(3)そのスクリーニングといった流れで進行し、それぞれのプロセスを支援するAIが開発されている。論文情報の解析による未知のターゲット探索やロボティクスを生かした化合物設計の自動化、画像解析による薬剤評価といったユニークな技術を持ったプレーヤーが活躍しており、市場はまさに戦国時代の様相を呈している。

創薬支援AIのイメージ
創薬支援AIのイメージ
(出所:日経クロステック)
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自然言語処理で未知のターゲットを探索

 創薬にAIを応用するメリットの一つが、人間の常識に左右されずに思いも寄らないような新しい発想をもたらしてくれることだ。FRONTEO(フロンテオ)の創薬支援AI「Cascade Eye(カスケード アイ)」は、調べたい疾患と関連する分子や遺伝子を相関図として可視化することで、主に(1)のターゲット探索のプロセスを支援する。

 ベースにあるのは独自の自然言語解析AIエンジン「Concept Encoder(コンセプト エンコーダー)」だ。あるテキストについて、意味を持つ最小単位である「形態素」に分割し、その使われ方を分析することで、テキストの特徴を数値化する。このときに、ある単語が別のどんな単語とセットで使われることが多いかという「共起」関係を学習する。

 例えばある期間に書かれた文章の中には「The President(大統領)」という表現と「Biden(バイデン)」という表現がセットで使われることが多いという共起関係を学習すれば、同じ時期に書かれた文章の中で「The President」が単体で使われていたとしても、この言葉が「Biden」と同じ意味であることを認識できる。2単語の関係性であれば人間でも推測できるかもしれないが、一見すると無関係な単語との関係性でも見つけてこられるのがAIならではの強みだ。

 Cascade Eyeは膨大な学術論文を教師データとして、様々な分子や遺伝子を疾患と結びつけ、研究者が検索欄に疾患名を入力すると相関図として表示する仕組みだ。研究者は相関図を見ながら効率よくターゲットを選ぶことができる。逆に疾患より下流の反応経路を見ることで、疾患の目印となるバイオマーカーの探索に応用することも可能だ。

疾患と関連する分子や遺伝子が相関図として可視化される
疾患と関連する分子や遺伝子が相関図として可視化される
(出所:FRONTEO)
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 Cascade Eyeは2020年に始めたサービスだが、FRONTEOのライフサイエンスAI CTO(最高技術責任者)の豊柴博義氏は「AIが提案してきたものが本当にあっているのか信頼できないという人はまだ一定数いる」と指摘する。「だがAIを使うというのはそういうことではない。逆に自分たちが知らないものが出てきたのだと理解するべきだ」。豊柴氏は独自に磨いてきた自然言語処理を武器に、こうした現状を変えていきたいと訴える。