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 2021年6月末、およそ2年ぶりに、モバイル業界最大のイベントである「MWC Barcelona 2021」が開催されました。新型コロナ禍ということでリアルとオンラインのハイブリッド形式で開催され、業界の有識者や有力企業から多くの最新情報が発信されました。中でも注目を集めたトピックの一つが、オープンな仕様に基づいて、さまざまなベンダーの基地局製品を組み合わせられる「Open RAN」です。

21年6月末に開催されたモバイル業界最大のイベント「MWC Barcelona 2021」
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21年6月末に開催されたモバイル業界最大のイベント「MWC Barcelona 2021」
(出所:GSMA)

 本記事で解説する仮想化基地局である「virtual RAN (以下、vRAN)」は、Open RANと密接したテクノロジーであることから、MWCでもvRANに多くの関心が集まりました。本連載「vRAN技術解説」では2回にわたって、これからの5G(第5世代移動通信システム)、そして5Gの次の世代の通信規格である「6G」へ向けた進展と切っても切り離せないvRAN について解説します。

vRANが登場した背景

 vRANとは、私たちが日常使っている携帯端末などが接続される携帯電話ネットワーク、すなわち無線アクセスネットワーク(Radio Access Network、RAN)を構成する無線基地局(gNB)を、仮想化システムで実現するものです。似た用語として VLAN (Virtual Local Area Network)がありますが、こちらはローカルネットワークを論理的に分割するテクノロジーであり、vRANとは全くの別物です。

 まずはvRANが登場した背景を解説します。2000年代半ばから本格化したサーバーの仮想化やクラウドコンピューティングによってITの世界では、必要な時に必要な場所で、必要となるコンピューティングリソースを利用できる仕組みが確立しました。具体的にはコンピューティングリソースを抽象化し、ハードウエアとソフトウエアを分離することで、集約による物理リソースの低減やシステムの迅速な展開・リカバリー、そして要件に応じた柔軟なスケーリングなどが可能となりました。

 この流れはNFV(Network Functions Virtualization)という形で通信インフラにも広がりました。これまで専用ハードウエアで実現されていたネットワーク機能、例えばルーターやファイアウオール、アプリケーションデリバリーコントローラーなどを、ソフトウエア機能として実装。安価な汎用サーバー上に仮想化されたワークロードとして稼働できるようになりました。

 NFVは4G以降、携帯電話ネットワークにも取り入れられました。携帯電話ネットワークは主に、基幹網である「コアネットワーク(以下、CN)」と、基地局などの「RAN」で構成します。NFV化は、まずCNを構成するEPC(Evolved Packet Core)やHSS(Home Subscriber Server)、IMS(IP Multimedia Subsystem)といった機能から進みました。ただし携帯電話事業者のインフラに関連投資の7割以上を占めるといわれるRANについては、CNと同じ歩調では仮想化が進みませんでした。主な理由として4Gの時代は、複雑で高度なRANのリアルタイム信号処理を汎用サーバーで実現するのが容易ではなかったことがあります。さらに、これまで一枚岩で実現してきたRAN機能を最適に分割するインターフェースやAPI(Application Programming Interface)が十分に確立されていなかったことなども理由の1つとして挙げられます。

世界の携帯電話事業者は1契約者あたりのトラフィックが急増するものの、収入は横ばいというギャップに直面している
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世界の携帯電話事業者は1契約者あたりのトラフィックが急増するものの、収入は横ばいというギャップに直面している
(出所:エヌビディア)

 世界の携帯電話事業者は、年々リッチになる各種コンテンツや本格化するIoT化などで、急増するユーザートラフィックへの対応を余儀なくされています。その一方で、激しい価格競争でARPU (契約あたりの月間平均収入)はフラット化する傾向にあります。今後大規模な5Gのミリ波設備の展開が求められることなどから、これまで以上にRAN側のイノベーションが求められる状況でした。

 そんな中、RAN側の状況が、4G時代から大きく変わってきました。足りなかった汎用サーバーのリアルタイム演算能力は、アクセラレーターの活用によって向上が進んでいます。RANを適切に分割するインターフェースについても、携帯電話の標準化団体である「3GPP(3rd Generation Partnership Project)」やオープン仕様を策定する業界団体「O-RAN Alliance」などで関連規格の整備が進み、世界中の携帯電話事業者、そして機器ベンダーやソフトウエアベンダーのエコシステムが活性化しています。20年の5G元年を目前にしてRANのNFV化、つまりvRANの本格展開の下地が整いました。

 ほぼ時を同じくして、日本国内の新興オペレーターである楽天モバイルがサービスを開始しました。楽天モバイルは、RANを含めた完全仮想化ネットワークを採用しています。つまりvRANの先進的な事例として楽天モバイルが、世界中から大きな注目を集めたのは記憶に新しいところです。

vRANのアーキテクチャー

 次に、5Gを前提としてvRANのアーキテクチャーを解説します。

 vRANでは、これまで専用ハードウエアで構成されていたgNBを、以下の図のようにCU(Central Unit)とDU(Distributed Unit)、RU(Radio Unit)の3つのコンポーネントに分割する形を基本とします。

vRANのアーキテクチャー。専用ハードウエアで構成していたgNBをCUとDU、RUに分割する構成を基本とする
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vRANのアーキテクチャー。専用ハードウエアで構成していたgNBをCUとDU、RUに分割する構成を基本とする
(出所:エヌビディア)

 そして、それぞれのコンポーネントを仮想化 (Virtual Network Function : VNF) あるいはコンテナ化 (Container Network Function : CNF) し、汎用サーバーで動作させます。

 なお、これはOpen RANの要素を含んだ内容にはなりますが、これらコンポーネントを別々のベンダーから調達し、マルチベンダー構成のgNBを構築できることも、旧来のRANとの大きな違いになります。

 異なるベンダー間のコンポーネントのスムーズな接続にあたって重要になるのが、標準化されたインターフェースです。上図でミッドホールと示されている部分、すなわちCUとDU間の接続インターフェースは、3GPPにてF1(F1-C/F1-U)というインターフェースが規定されています。フロントホールと呼ばれるDUとRU間のインターフェースについては、これまで業界団体「CPRI(Common Public Radio Interface)」で規定された「eCPRI(enhanced Common Public Radio Interface)」という仕様が使われてきました。しかし異なるベンダーの機器をつなぐには仕様が不十分であり、O-RAN Allianceが「7.2xスプリット」と呼ぶマルチベンダー構成に対応した仕様を規定。これがデファクトスタンダードになりつつあります。

 このようなvRANを活用することで、携帯電話事業者はどのようなメリットを得られるのでしょうか。例えば、5Gの持つ高速・大容量(eMBB)と超低遅延(URLLC)、多数同時接続(mMTC)という機能を活用したアプリケーションごとに、SLA(Service Level Agreement)とそれにひもづくトラフィック特性に応じて、CUやDUおよびその他コンポーネントを最適に配置することが可能になります。

vRANを活用することで、ユースケースごとにCUやDUなどを仮想的に最適配置できるようになる
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vRANを活用することで、ユースケースごとにCUやDUなどを仮想的に最適配置できるようになる
(出所:エヌビディア)

 このような各拠点にまたがった仮想化、あるいはコンテナ化されたコンポーネントは、ネットワークスライシングを用いてソフトウエアで分割されたRANリソースとして、各アプリケーションフローに割り当てられます。超低遅延が要求される通信の場合には、アンテナにもっとも近い拠点でCUとDUおよび5GCなどを稼働させる、といった運用が可能になります。