全6427文字
PR

 オープン化という新たな波が押し寄せるモバイルネットワーク。その震源地となっているのが業界団体「O-RAN ALLIANCE」(オーラン アライアンス)だ。O-RAN ALLIANCEの設立企業の1社であるNTTドコモが、同団体のビジョンや活動状況、仕様の詳細を解説する。

 ソーシャルネットワークサービス(SNS)やオンラインゲームなどに代表されるアプリケーションの利用拡大に伴い、モバイルネットワークへの要望は多岐に広がっています。あらゆるモノがネットワークにつながるIoT(Internet of Things)や、幅広い産業との連携による新たなビジネスの創出、地方創生、人手不足など社会的課題の解決に貢献するネットワークへの期待も高まっています。

 こうしたニーズに応えるためには、モバイルネットワークの性能向上に加え、より拡張性が高く、より迅速かつ柔軟に展開可能なネットワークが求められます。新たなユースケースに対して、携帯電話事業者が導入済みのベンダー以外が開発したソリューションを柔軟に取り込むことができれば、顧客に迅速なサービスの提供が可能になります。

 そのためにはあらゆる装置がオープンに接続できるような環境(エコシステム)が必要です。NTTドコモは4G時代から無線アクセスネットワーク(RAN:Radio Access Network)内の装置間のインターフェースを共通化することで、異なるベンダー間で相互接続を実現しています。

 しかし世界の多くの携帯電話事業者のRAN内の装置は、ベンダー独自のインターフェースで規定されており、4G時代は異なるベンダー間の接続が実現できませんでした。5G(第5世代移動通信システム)時代において、グローバルに共通のオープンインターフェースの登場が期待される中、NTTドコモは2018年2月、世界の携帯電話事業者と連携し、RANのオープン化やインテリジェント化を目的とした業界団体「O-RAN ALLIANCE」を設立しました。

「オープン」と「インテリジェント」をビジョンに掲げる

 O-RAN ALLIANCEは、RANをよりオープンでスマートに進化させることを目指しています。具体的には、

  • 相互接続が可能なオープンなインターフェースの推進、無線ネットワーク装置の仮想化、ビッグデータの活用
  • 汎用(はんよう)サーバーの利用の推進と専用ハードウエア部分の最小化
  • API(Application Programming Interface)の規定、オープンソースの利用の推進

 という3点です。ネットワークをよりインテリジェントなものにするため、リアルタイム情報収集と機械学習やAI技術の活用も目指しています。

 O-RAN ALLIANCEは、「オープン」「インテリジェント」という2つの主要なビジョンを掲げています。

 まず「オープン」についてO-RAN ALLIANCEでは、コスト効率が高く、柔軟に機能拡張が可能なRANを実現するにはオープン化が必須と考えています。オープンなインターフェースを規定することで、構成要素単位での機能拡張による独自サービスの短時間での構築や、特定の要求条件を満たすカスタマイズが可能となるからです。また複数ベンダーの装置を用いたネットワークが実現でき、より活気のあるエコシステムの構築が期待されます。

 続く「インテリジェント」について、O-RAN ALLIANCEでは、5G時代のネットワークは多種多様なアプリケーションへの対応が求められ、複雑化が進むと想定しています。その際、オペレーションやネットワークの最適化は、従来のように人手で対応することが困難になると考えられます。このため、学習機能を利用したより自律的かつ自動化されたオペレーションの実現が必要不可欠になります。進化を遂げている深層学習に代表されるAIを活用することで、RANのインテリジェント化やネットワーク全体の最適化ができるようになります。

O-RAN論理アーキテクチャーを定義し、WGやFGにおいて仕様検討

 O-RAN ALLIANCEはこれらのビジョンの実現に向け、O-RAN論理アーキテクチャーを定義しました。その構成要素や検討トピックごとに設けているWG(Working Group)やFG(Focus Group)において具体的な検討を進めています。

図1 O-RANの論理アーキテクチャー
[画像のクリックで拡大表示]
図1 O-RANの論理アーキテクチャー
(出所:NTTドコモ)

 まず図1に示すO-RAN論理アーキテクチャーを詳しく見ていきます。O-RAN ALLIANCEでは、RANの通信処理機能をRU(Radio Unit)とDU(Distributed Unit)、CU(Central Unit)という3つのコンポーネントに分離可能な構成を採用しています。RUは、無線周波数(RF)と無線の物理層の下位機能を担います。DUは無線の物理層の上位およびMAC(Media Access Control)とRLC(Radio Link Control)と呼ぶ機能を、CUは無線のPDCP(Packet Data Convergence Protocol)とSDAP(Service Data Adaptation Protocol)やRRC(Radio Resource Control)という機能を終端します。

 DUとCUは汎用ハードウエアで構成される仮想化基盤上で動作する仮想化アプリケーション(vDUやvCU)としての提供も想定します。さらに、無線のリソース管理の最適化やオペレーションの自動化を実現するプラットフォームである「RIC(RAN Intelligent Controller)」と、RANの保守とオーケストレーションを行うフレームワークとして「SMO(Service Management and Orchestration)」も定義しています。

 次にO-RAN ALLIANCEのWG/FG一覧を示します。ここではその活動概要について紹介します。詳細については第2回と第3回で一部取り上げます。

表1 O-RAN ALLIANCEのWG/FGの活動内容
(出所:NTTドコモ)
WG/FG検討スコープ
WG1(Use Cases and Overall Architecture)アーキテクチャーやユースケース、スライシング、デモ
WG2(Non-real-time RIC and A1 Interface)Non-RT RICやA1インターフェース、rApp(第三者アプリ)
WG3(Near-real-time RIC and E2 Interface)Near-RT RICやE2インターフェース、xApp(第三者アプリ)
WG4(Open Fronthaul Interfaces)フロントホール
WG5(Open F1/W1/E1/X2/Xn Interface)X2やXn、F1などのインターフェースの相互接続プロファイルや、DUとCUへのO1インターフェース
WG6(Cloudification and Orchestration)仮想化基盤(O-Cloud)やvDU/vCU、AAL、O2インターフェース
WG7(White-box Hardware)主にRUのハードウエアの参照デザイン
WG8(Stack Reference Design)DUとCUのソフトウエアアーキテクチャーの参照デザイン
WG9(Open X-haul Transport)トランスポート装置やトランスポートネットワークの制御・保守プロトコル
WG10(OAM for O-RAN)SMOやO1(全体調整)インターフェース
SFG(Security)オープンRANのセキュリティーリスク分析や対策検討
TIFG(Test & Integration)テスト仕様とりまとめやPlugfest、OTIC、認証・バッジングプロセス
OSFG(Open Source)O-RAN Software Community
SDFG(Standard Development)標準化戦略や他の標準化団体とのインターフェース