オープン化という新たな波が押し寄せるモバイルネットワーク。その震源地となっているのが業界団体「O-RAN ALLIANCE」(オーラン アライアンス)だ。O-RAN ALLIANCEの設立企業の1社であるNTTドコモが、同団体のビジョンや活動状況、仕様の詳細を解説する。
ソーシャルネットワークサービス(SNS)やオンラインゲームなどに代表されるアプリケーションの利用拡大に伴い、モバイルネットワークへの要望は多岐に広がっています。あらゆるモノがネットワークにつながるIoT(Internet of Things)や、幅広い産業との連携による新たなビジネスの創出、地方創生、人手不足など社会的課題の解決に貢献するネットワークへの期待も高まっています。
こうしたニーズに応えるためには、モバイルネットワークの性能向上に加え、より拡張性が高く、より迅速かつ柔軟に展開可能なネットワークが求められます。新たなユースケースに対して、携帯電話事業者が導入済みのベンダー以外が開発したソリューションを柔軟に取り込むことができれば、顧客に迅速なサービスの提供が可能になります。
そのためにはあらゆる装置がオープンに接続できるような環境(エコシステム)が必要です。NTTドコモは4G時代から無線アクセスネットワーク(RAN:Radio Access Network)内の装置間のインターフェースを共通化することで、異なるベンダー間で相互接続を実現しています。
しかし世界の多くの携帯電話事業者のRAN内の装置は、ベンダー独自のインターフェースで規定されており、4G時代は異なるベンダー間の接続が実現できませんでした。5G(第5世代移動通信システム)時代において、グローバルに共通のオープンインターフェースの登場が期待される中、NTTドコモは2018年2月、世界の携帯電話事業者と連携し、RANのオープン化やインテリジェント化を目的とした業界団体「O-RAN ALLIANCE」を設立しました。
「オープン」と「インテリジェント」をビジョンに掲げる
O-RAN ALLIANCEは、RANをよりオープンでスマートに進化させることを目指しています。具体的には、
- 相互接続が可能なオープンなインターフェースの推進、無線ネットワーク装置の仮想化、ビッグデータの活用
- 汎用(はんよう)サーバーの利用の推進と専用ハードウエア部分の最小化
- API(Application Programming Interface)の規定、オープンソースの利用の推進
という3点です。ネットワークをよりインテリジェントなものにするため、リアルタイム情報収集と機械学習やAI技術の活用も目指しています。
O-RAN ALLIANCEは、「オープン」「インテリジェント」という2つの主要なビジョンを掲げています。
まず「オープン」についてO-RAN ALLIANCEでは、コスト効率が高く、柔軟に機能拡張が可能なRANを実現するにはオープン化が必須と考えています。オープンなインターフェースを規定することで、構成要素単位での機能拡張による独自サービスの短時間での構築や、特定の要求条件を満たすカスタマイズが可能となるからです。また複数ベンダーの装置を用いたネットワークが実現でき、より活気のあるエコシステムの構築が期待されます。
続く「インテリジェント」について、O-RAN ALLIANCEでは、5G時代のネットワークは多種多様なアプリケーションへの対応が求められ、複雑化が進むと想定しています。その際、オペレーションやネットワークの最適化は、従来のように人手で対応することが困難になると考えられます。このため、学習機能を利用したより自律的かつ自動化されたオペレーションの実現が必要不可欠になります。進化を遂げている深層学習に代表されるAIを活用することで、RANのインテリジェント化やネットワーク全体の最適化ができるようになります。
O-RAN論理アーキテクチャーを定義し、WGやFGにおいて仕様検討
O-RAN ALLIANCEはこれらのビジョンの実現に向け、O-RAN論理アーキテクチャーを定義しました。その構成要素や検討トピックごとに設けているWG(Working Group)やFG(Focus Group)において具体的な検討を進めています。
まず図1に示すO-RAN論理アーキテクチャーを詳しく見ていきます。O-RAN ALLIANCEでは、RANの通信処理機能をRU(Radio Unit)とDU(Distributed Unit)、CU(Central Unit)という3つのコンポーネントに分離可能な構成を採用しています。RUは、無線周波数(RF)と無線の物理層の下位機能を担います。DUは無線の物理層の上位およびMAC(Media Access Control)とRLC(Radio Link Control)と呼ぶ機能を、CUは無線のPDCP(Packet Data Convergence Protocol)とSDAP(Service Data Adaptation Protocol)やRRC(Radio Resource Control)という機能を終端します。
DUとCUは汎用ハードウエアで構成される仮想化基盤上で動作する仮想化アプリケーション(vDUやvCU)としての提供も想定します。さらに、無線のリソース管理の最適化やオペレーションの自動化を実現するプラットフォームである「RIC(RAN Intelligent Controller)」と、RANの保守とオーケストレーションを行うフレームワークとして「SMO(Service Management and Orchestration)」も定義しています。
次にO-RAN ALLIANCEのWG/FG一覧を示します。ここではその活動概要について紹介します。詳細については第2回と第3回で一部取り上げます。
WG/FG | 検討スコープ |
---|---|
WG1(Use Cases and Overall Architecture) | アーキテクチャーやユースケース、スライシング、デモ |
WG2(Non-real-time RIC and A1 Interface) | Non-RT RICやA1インターフェース、rApp(第三者アプリ) |
WG3(Near-real-time RIC and E2 Interface) | Near-RT RICやE2インターフェース、xApp(第三者アプリ) |
WG4(Open Fronthaul Interfaces) | フロントホール |
WG5(Open F1/W1/E1/X2/Xn Interface) | X2やXn、F1などのインターフェースの相互接続プロファイルや、DUとCUへのO1インターフェース |
WG6(Cloudification and Orchestration) | 仮想化基盤(O-Cloud)やvDU/vCU、AAL、O2インターフェース |
WG7(White-box Hardware) | 主にRUのハードウエアの参照デザイン |
WG8(Stack Reference Design) | DUとCUのソフトウエアアーキテクチャーの参照デザイン |
WG9(Open X-haul Transport) | トランスポート装置やトランスポートネットワークの制御・保守プロトコル |
WG10(OAM for O-RAN) | SMOやO1(全体調整)インターフェース |
SFG(Security) | オープンRANのセキュリティーリスク分析や対策検討 |
TIFG(Test & Integration) | テスト仕様とりまとめやPlugfest、OTIC、認証・バッジングプロセス |
OSFG(Open Source) | O-RAN Software Community |
SDFG(Standard Development) | 標準化戦略や他の標準化団体とのインターフェース |