前回は 仮想化基地局であるvRAN(virtual RAN) の登場に至る経緯とアーキテクチャーを紹介し、その利点と課題についてまとめました。前回まとめたvRAN導入に向けた課題は以下の3つです。
- 1.RAN(Radio Access Network)システム全体にわたって、CAPEX(設備投資)とOPEX(運用コスト)両面から適正なTCO (Total Cost of Ownership) でシステムの実現が求められる
- 2.マルチベンダーでの接続実績はまだ豊富とは言えない状況。特にフロントホールにおける DU(Distributed Unit)とRU(Radio Unit)間のエコシステムのさらなる成熟が急務
- 3.汎用(はんよう)サーバーのコンピューティングリソースで、5Gの厳密な要件に沿ったリアルタイム信号処理を行うために、GPU(Graphics Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)といったアクセラレーターを組み込むことが多くのユースケースで必須。その際に、高パフォーマンスを実現するためには総合インテグレーションが不可欠
5G(第5世代移動通信システム)、さらに6Gは、幅広い産業でDX(デジタルトランスフォーメーション)を支える重要なインフラと目されています。5G以降、導入が期待される vRANの課題は、今後の近未来の社会基盤そのものの課題と言っても過言ではないでしょう。本記事では、これらの課題について、最新動向と関連技術を解説し、今後の展望に触れます。
vRANのTCOは従来よりも下がる、ただしインテグレーションが必要
前回解説した通り、vRANは旧来の一枚岩のRANシステムのハードウエアとソフトウエアを分離します。これまでのRANとvRANのTCOを比較すると、筆者は以下のようになると分析します。
vRANの場合、規模の経済による低価格化が見込める汎用(はんよう)サーバーを最大限活用し、ITの世界におけるクラウドネイティブテクノロジーなど最新のイノベーションを取り入れられます。これまでのRANと比較してCAPEXとOPEXの両面でTCOを削減できるとみています。
なお、vRANに移行する際に忘れてはならないのが、四角の点線で表現したインテグレーションです。これまでRANベンダーが垂直統合型システムとして提供していたものを、vRANの場合、各コンポーネントを調達の上、誰かがシステムとしてインテグレーションする必要があります。この場合の選択肢として、
- a) RANシステムを所有する主体(通信事業者など)自身がインテグレーション
- b) コンポーネントを提供するベンダーのインテグレーション支援サービスや、O-RAN Alliance (以下、O-RAN)の相互接続認証制度「Certification and Badging」などを活用
- c) 第三者(システムインテグレーターやオペレーターなど)のインテグレーションビジネスを利用
などが考えられます。当面は、上記b)かc)、あるいはその併用が主流になりそうです。今後、エコシステムが成熟するにつれて、a) も視野に入ってくるでしょう。
相互接続性は一歩ずつ前進
RANに限らず、マルチベンダーでのシステム構築は容易ではありません。ことネットワークインフラのマルチベンダー接続が簡単ではない理由の一つに、標準仕様に対するベンダーごとの解釈の違いがあります。特に標準仕様が産声を上げたばかりの分野において、その傾向は顕著です。
vRANのように新しいアーキテクチャーのマルチベンダー化、特に低レイヤーで解釈の違いが生じやすいフロントホールについては、ベンダーやインテグレーター、通信事業者が協調して解釈を統一し、根幹となる相互接続性を確立する必要があります。その上で、RANシステム全体を最適化し、エンドツーエンドで所望のパフォーマンスを達成できるような枠組みが求められます。
ここ数年、相互接続性を高めようとエコシステムをあげてさまざまな取り組みが進み始めています。代表例として、O-RANのWG4(Working Group 4)で細かに明文化された相互接続性試験の仕様「IOT Profile」や、「Virtual Exhibition」や「Plugfest」といったO-RANが主催するイベントにおけるコンポーネント間の接続実証が挙げられます。米Facebookを中心に始まった通信機器にオープンソースなどを取り入れるプロジェクト「TIP (Telecom Infra Project) 」でも、各コンポーネントを参画企業で検証していく開発・検証施設「TIP Community Labs」が進んでいます。
vRAN化で先行する通信事業者が主導する形で、先述した団体でカバーしていない、通信事業者視点の要件を総合的に実証する枠組みも確立しつつあります。21年2月にNTTドコモが立ち上げたパートナー企業と共にOpen RANの海外展開を狙う「5G オープンRANエコシステム」はその先進例と言えます。
このようにエコシステムに日々蓄積される成果物をうまく活用することで、相互接続実績のあるマルチベンダーによるvRAN構成を事前検証することが可能になりつつあります。