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現在はリバース試験中、22年前半に本番相当の試験衛星で検証

 力業でこれまでの常識を乗り越えようとする楽天とASTのスペースモバイル計画。実際にどこまで計画が進んでいるのか。

 松井氏によるとASTは、19年4月にBlueWalker 1と呼ぶ検証用の衛星を打ち上げたという。「こちらで現在、リバース試験を実施している。具体的には、人工衛星側に通常の携帯電話に相当する機能を載せて、地上局側に人工衛星に相当する機能を載せる。人工衛星で発生するドップラーシフトによる遅延を補正し、LTEのプロトコルによって通信できるかどうかを検証している」(松井氏)

スペースモバイル計画のスケジュール
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スペースモバイル計画のスケジュール
(出所:ASTの資料を基に日経クロステック作成)

 22年前半に打ち上げ予定の次期検証衛星「BlueWalker 3」では、本番で用いる人工衛星とほぼ同じ構成で試験を実施する予定だ。宇宙に全長24mのアンテナを備えた人工衛星を飛ばし、地上のスマホと確実に通信できるかどうかを検証する。通信速度は下り最大100Mビット/秒、上り最大数Mビット/秒のLTEクラスだ。実際の実効速度については、BlueWalker 3の検証の中で確認していくという。この検証が成功すれば、スペースモバイル計画は実現に向けてぐっと近づく。

 その後は4段階で実際のサービスを開始する計画だ。22年末を予定するフェーズ1では、20基の人工衛星を打ち上げ、まずは赤道付近の国でサービスを開始する。23年以降のフェーズ2では、さらに45基の人工衛星を打ち上げ、北米や欧州、日本を含むアジアでサービスを開始する。その後、フェーズ3ではさらに45基の人工衛星を打ち上げて全世界をカバーし、フェーズ4では58基の衛星を打ち上げ、衛星間MIMO技術を使って高速化を図る計画だ。

 楽天の計画に合わせて、日本での制度整備も進んでいる。現在、スペースモバイルのコンセプトに沿って総務省で周波数の干渉検討の作業が始まっている。21年末には作業を終え、22年半ばには制度整備が完了する見込みだ。

 ASTが公開する資料を見ると、スペースモバイルのサービスは低価格を意識したサービスになりそうだ。ASTが想定するARPU(契約当たり月間平均収入)は、米国や欧州で7.62米ドル(約830円)。赤道付近の国で1.03米ドル(約110円)だ。ASTは27年までに全世界で3億7300万契約を狙う計画であり、単価よりも契約数を追う戦略であることが分かる。

 ASTは、楽天のほか英Vodafone(ボーダフォン)やスペインTelefonica(テレフォニカ)など、世界の大手通信事業者と提携している。実際のスペースモバイルのサービスは、ASTと提携する通信事業者が提供する形になりそうだ。楽天によるスペースモバイルのサービス提供イメージについて松井氏は「別料金にするのか、既存の契約の中でそのまま使えるようにするのか、まだ決めていない」と打ち明ける。

 振り返ってみれば、楽天が携帯電話サービス提供に向けて採用した完全仮想化ネットワークも、サービス開始前は「常識外れ」「実現は難しいだろう」という声が相次いだ。スペースモバイル計画についても、同じような声を跳ねのけられるのか。22年前半に打ち上げる本番相当の次期検証衛星の成否が、前代未聞の計画の実現を左右する。