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 世界で研究開発が加速する「6G」。6Gの技術要素の1つになる可能性があるのが、あらゆる場所をアンテナにする技術だ(図1)。NTTドコモは、5G(第5世代移動通信システム)の拡張、そして6Gのための技術開発として「空間領域の分散ネットワーク高度化技術」に取り組む。

図1 次世代通信技術で求められる「中継技術」
図1 次世代通信技術で求められる「中継技術」
次世代通信技術を展開するため、様々な場所で通信環境を整える技術の開発が進められている。5G・6Gになると電波の直進性などの性質で、今まで通りだと通信環境が悪化する可能性がある。例えば室内であれば窓ガラスがあるだけで、電波が大きく減衰する。そこでメタサーフェスレンズなどで基地局の電波を集め、レピーターなどで増幅して拡散したり、NTTドコモが開発するつまむアンテナのように、室内まで電波を誘導したりすることが重要になる。その他、IRS(Intelligent Reflecting Surface)や小型ノードなどを利用し、スマホやクルマなど向けに通信を媒介していくことも考えている。(NTTドコモの図を基に日経クロステックが作製)
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 一例として、誘電体導波路で簡単に通信エリアを拡張できる「つまむアンテナ」と、窓ガラスを電波レンズとして受信強度を上げられる「メタサーフェスレンズ」の2つのデモを紹介した。具体的には基地局からの電波をメタサーフェスレンズが受け、そこからレピーターとつまむアンテナを介して電波が届きにくい場所を通信エリア化するというものだ。アンテナ技術によって様々な場所の通信環境を整えられることを示した。

 「5Gでミリ波を扱うようになったが、伝搬ロスが大きかったり、遮蔽の影響を受けやすくなったりしている。6Gでは、さらに高い周波数のテラヘルツ波にチャレンジしていく。従来型ではない基地局アンテナをいろいろ考える必要がある」。NTTドコモ執行役員6G-IOWN推進部長の中村武宏氏はこう語る。

 電波の周波数は高くなれば高くなるほど直進性が増し、物陰などに届きにくくなる。6G向けの周波数拡張として有望視される100GHz以上のテラヘルツ波になると、その性質は光に近くなり、見通し外の通信では極端に電波強度が落ちてしまう。そのためあらゆる場所にできるだけアンテナを設置することが、6G時代には重要になる。

 NTTドコモが開発した「つまむアンテナ」は、そんな6G時代に向けてあらゆる場所をアンテナ化するための技術だ(図2)。一見すると、単なる棒状のケーブルに見える。しかし誘電体を装着した洗濯バサミでケーブルをはさむと、はさんだ場所から電波が放射され、その周囲を通信エリア化できるようになる。はさむ場所を変えることで、エリア化する場所を変更することもできる。「例えば工場内などに、つまむアンテナをあらかじめ配置しておくことで、工場内でレイアウトが変わった際にも、フレキシブルにエリアを変えることができる」(NTTドコモの中村氏)

図2 つまむアンテナで電波誘導
図2 つまむアンテナで電波誘導
誘電体導波路、誘電体の留め具で構成する「つまむアンテナ」(左)。留め具の先に誘電体がある(右)。つまむアンテナは誘電体導波路を留め具でつまむと、そこから電波が発生する技術である。次世代通信技術で電波が届かない場所の通信エリア化を支援できる。(写真:日経クロステック)
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 このつまむアンテナは、誘電体導波路の一種だ。誘電体導波路とは、中心となる誘電体の周りを、誘電率が異なるガラスや空気、プラスチックなどで囲うことで、中心の誘電体を使って電磁波を伝送する。

 光ファイバーも、コアとクラッドという誘電率が異なる素材を組み合わせた誘電体導波路だ。つまむアンテナはコアとしてケーブルの誘電体にフッ素樹脂のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を利用し、クラッドとして大気中の空気を扱う構成となる。PTFEはフライパンの表面塗装に用いられている一般的なプラスチック系素材だ。

 この誘電体導波路に電磁波を流すと、誘電率の違う空気との境目で反射され、光ファイバーと同じように導波路の中を電磁波が伝わる。その途中で誘電体を装着した洗濯バサミではさむと、境界で電磁波が反射されず周囲に漏れるようになる(図3)。これを逆にアンテナとして活用する仕組みだ。通常の導波管は、中空の金属で構成するケースが多く、曲げたりすることが困難だ。つまむアンテナはケーブルと同じように室内配線することが可能で、より手軽に扱える利点がある。

図3 つまむアンテナの利用イメージ
図3 つまむアンテナの利用イメージ
誘電体導波路を誘電体の留め具でつまむと、そこから電波が発生する。誘電体導波路に複数の留め具を利用すると、それぞれの場所から電波が生まれる。(NTTドコモの図を基に日経クロステックで作製)
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 さらに「利用する周波数帯を高くすればするほど、太さを細くできる」(NTTドコモの中村氏)という利点もある。テラヘルツ波に当たる150GHz帯に対応したつまむアンテナは、一般的なケーブルよりも細いサイズだ。この点でもつまむアンテナは、6G時代に向いた技術といえる。

 デモではつまむアンテナを経路に使って映像伝送する様子を紹介。洗濯バサミを外すと映像が止まる様子を見せた。NTTドコモは、このつまむアンテナについて、今後も実用化に向けて検証を続けていくという。