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 ソフトバンクが空飛ぶ基地局「HAPS」(成層圏通信プラットフォーム)の開発を急ピッチで進めている(図1)。2021年7月末に開催した6G関連のラボツアーでは、無人飛行機とともに成層圏を飛んだペイロード(基地局)や、ペイロードの移動によって通信が不安定になる「Moving Cell問題」の解決を狙った開発品を報道関係者に公開した。27年を目標とするHAPS商用化に向けて、同社は着々と開発を進めている。

図1 成層圏を飛行したペイロード
図1 成層圏を飛行したペイロード
ペイロード前面(左)とペイロード上部(右)。アンテナや電子機器などを搭載し、成層圏から通信エリアをつくる。写真は実際に成層圏に到達したペイロード。(出所:日経クロステック)
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 HAPSとは、無人航空機にLTEや5Gの基地局(ペイロード)を載せて、高度20kmから携帯電話の通信エリアを生み出すものだ。地上の基地局と同様の高速・大容量通信が可能で、しかも低遅延という特徴を持つ。1機で直径200km程度のエリアをカバーできる。ソフトバンクは20年9月に実際に成層圏で無人航空機の飛行実験を成功させた。無人航空機に搭載した基地局を介して通信環境を構築。実験では成層圏で機体がどのような影響を受けるのかなどを試験し、HAPS実用化に向けたノウハウを蓄積している様子だ。

 ソフトバンクは人工衛星や無人航空機を活用した非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network、NTN)の構築を目指している。同社が「三種の神器」と呼ぶタイプの異なる3つの非地上系ネットワークを組み合わせ、地球を覆うような通信網を構築する計画だ。NTNを支える三種の神器の1つがHAPSであり、ソフトバンク子会社のHAPSモバイル(東京・港)がサービス開発を担う。ソフトバンクは空・宇宙からのネットワークによって、通信エリアが整っていない地域などにも通信インフラを提供していく考えだ。

成層圏の環境は過酷、ただし想定より飛行は静か

 ソフトバンクは、そんなHAPSを活用して実際に成層圏を飛行したペイロードを報道陣に披露した。ペイロードはユーザー端末とのデータ送受信を担う「サービスリンク」と、HAPSに載せた基地局と地上のネットワーク設備を結ぶ「フィーダーリンク」を支えるアンテナ・電子機器をまとめた設備だ。

 ペイロードの重さは約25kg。これを78mという巨大な翼を持つ無人飛行機が上空へと運ぶ。20年9月のフライトでは、到達した最大高度が6万2500ft(フィート)であり、成層圏滞在時間が5時間38分、総フライト時間が20時間16分、最大風速が58kt(ノット)、最低温度が-73℃だった。成層圏で長い時間を飛行していたものの、ペイロードは損傷なく地上へ帰還したという。

 このフライトでは、利用者のスマホと通信するサービスリンクとして、LTEの700MHz帯の周波数を利用。地上設備とつなぐフィーダーリンクはEバンド(70G/80GHz帯)を活用した。実際に地上のスマホから発信し、HAPSを経由してインターネットにつながった各地とビデオ通話をした。

 ソフトバンクは成層圏の飛行前、機体の振動・衝撃と気温・気圧の影響を課題として想定していた。まず飛行中の振動・衝撃について、これらが大きいとアンテナが揺れて通信の安定性に支障を来す。そこでソフトバンクは、HAPSと地上設備を結ぶフィーダーリンクのアンテナに、振動による影響を抑えるジンバル機構を採用した。飛行前は自動車や二輪車レベルの振動発生を想定していたものの、実際に成層圏を飛んでみると静かに走行する地下鉄ほどの振動に収まっていた。ジンバル機構の効果もあり、実際のフライトでは約20Mビット/秒の速度で安定的に通信できたという。

 気温と気圧の影響については、高度が上昇するほど気圧と気温は減少する。HAPSが飛行する成層圏では、気圧は20hPa、気温は-70℃近くまで下がる。汎用的な電子機器の動作保証温度は-30から-70℃まで程度のことが多く、HAPSが搭載する電子機器は、成層圏を飛行する際にそのままでは正常に動作しなくなる恐れがある。

 そこでソフトバンクは電子機器の温度を上げるため、ヒーター代わりの抵抗部品を50カ所以上に設置して発熱を起こすように工夫した。これによって成層圏の過酷な低温に電子機器が対応できるようにした。