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 世界で活発化する次世代通信システム「6G」の研究開発。標準化すら始まっていない段階であるものの、6Gの技術開発テーマの1つとして注目を集めているのが「テラヘルツ波」の活用だ。テラヘルツ波は、これまで宇宙観測や空港検査のスキャン用途などに使われてきた。一方で通信への応用は未開拓だ。5Gで拡張されたミリ波以上に飛びにくいテラヘルツ波は、果たして移動通信に使えるようになるのか。

6Gで活用が期待されるテラヘルツ波は課題が山積
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6Gで活用が期待されるテラヘルツ波は課題が山積
(出所:ソフトバンクの資料を基に日経クロステックが加筆して作製)

 「4年前からテラヘルツ波の研究開発に取り組んできた。テラヘルツ波は非常に扱いにくい周波数帯だが、同帯域を移動通信で使えるところまで昇華させたい」。ソフトバンク 先端技術開発本部 本部長の湧川隆次氏はこのように語る。

 テラヘルツ波とは、100GHzから10THzといった非常に高い周波数帯を指す。5Gで拡張されたミリ波帯よりもさらに高く、ほぼ光に近い特性を持つ。6Gの目標として世界の多くの団体が100Gビット/秒といった超高速通信を目指す中、実現に向けては、100GHz幅を超える広大な帯域幅を活用できる可能性があるテラヘルツ波の開拓が欠かせない。

 もっともテラヘルツ波は、直進性が高い上に伝搬損失が激しく、移動通信に使えるかどうかはまだ見えていない。「テラヘルツ波は、屋内の見通し環境くらいにしか使えないのではないか」という研究者の声も多い。

 それ以外にも、テラヘルツ波の通信への活用に向けては課題が山のようにある。ソフトバンク先端技術開発本部 次世代ネットワーク部 次世代技術開発課 課長の矢吹歩氏によると、「そもそもテラヘルツ波を直接生み出す発振器は、周波数帯が高過ぎて一般的な水晶発振器を使うことができない」という。通信エリアの拡大に欠かせない半導体アンプについても、「100GHz以上を増幅できる半導体素材が未開拓」(同)という状況だ。さらに5G以降のエリア構築に必須となる多数のアンテナ素子を実装する「ビームフォーミング」についても、「現状のテラヘルツ波に対応したアンテナ素子は500円玉大であるため、ビームフォーミングを実現するアンテナ技術についても課題」(同)という。

 世界中でテラヘルツ波の通信への応用に向けて研究開発が進むものの、見通し環境で送信側と受信側の位置を固定したケースがほとんどだ。端末が動き回る環境でテラヘルツ波を使った通信を実現できるのかどうかは、まだまだ見通せていない。

サーチライトのように回転アンテナで周囲をエリア化

 ソフトバンクは2021年7月、そんなテラヘルツ波の移動通信への応用に向けて、第一歩となる成果を報道陣に披露した。LTEの信号を変調して300GHz帯というテラヘルツ波をつくりだし、360度の周囲を通信エリア化する試作機だ。

ソフトバンクが開発した移動通信に対応したテラヘルツ通信の試作機。サーチライトさながら反射板が回転し周囲にエリアをつくる。こちらは送信側
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ソフトバンクが開発した移動通信に対応したテラヘルツ通信の試作機。サーチライトさながら反射板が回転し周囲にエリアをつくる。こちらは送信側
(撮影:日経クロステック)