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 総務省が実施したアンケートで明らかになった携帯ショップの「目も当てられない」実態。利用者のニーズを踏まえず、ショップスタッフが特定の料金プランを勧める実態が横行している。背景にあるのは、携帯大手が定めるショップの評価指標や手数料体系だ。厳しい営業目標を達成できなければ、手数料の大半を減らされ、強制閉店を余儀なくされるというプレッシャーの中、ショップスタッフが無理な販売に手を染めるという構図が浮かび上がる。

 公正取引委員会は2021年6月14日、携帯大手3社に対して、こうしたショップとの取引を自主的に改善することを求める行政指導を行った。携帯大手3社は総務省や公取委が問題視するショップの評価指標や手数料体系について、どう受け止めているのか。日経クロステックの取材に対し、NTTドコモとKDDI(au)、ソフトバンクの担当者が重い口を開いた。

NTTドコモとKDDI(au)、ソフトバンクの担当者が、日経クロステックの取材に対し総務省や公取委の指摘への受け止めを答えた
NTTドコモとKDDI(au)、ソフトバンクの担当者が、日経クロステックの取材に対し総務省や公取委の指摘への受け止めを答えた
(撮影:日経クロステック)
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評価制度自体は「過度な設定になっていない」

 NTTドコモ営業本部販売部代理店担当の川瀬裕吾担当部長は、総務省のアンケートや公取委の指摘について「厳正に受け止めている」と答える。「目標設定はニーズ調査に基づいており、ショップの販売力に合わせて提示してきた。一方でこの目標設定が高過ぎるという意見があるのも承知している。個々の店舗単位で目標設定を見直していかないといけない」とした。

 KDDI(au)コンシューマ営業統括本部コンシューマ営業推進1部の久木浩樹部長も「指摘で是正すべき点は是正する。評価制度が目的化しているところは、そうならないようにしないといけない。もっとも誤解されている部分はあるので、そこはご理解いただきたい」と話す。

 ソフトバンクコンシューマ事業統括ショップ推進統括室ショップ・クルー企画部の山下哲也部長代行も「評価制度は過度な設定にはなっていないという認識。しかし市場の変化によって将来的には、適合性の原則に反しているという声をいただく可能性がある。そこは真摯(しんし)に受け止めながら、適合性の原則に準拠する形を継続的に進めていきたい」と答えた。

 携帯大手3社ともに総務省と公取委の指摘を重く受け止め、正すべき点は正す姿勢を見せる。その一方で現状のショップに対する目標設定自体は、決して到達不可能ではないという認識も見せる。総務省のアンケートから垣間見えるショップスタッフの悲痛な声と携帯大手の担当者の認識には、大きな隔たりがある。

オンライン専用プランでショップが過剰に?強制閉店問題の真相

 日経クロステックの調べによると、携帯大手3社のショップに対する評価制度は、細部に違いはあれど大枠は似た形だ。

 MNP(モバイル番号ポータビリティー)による他社からの乗り換え獲得や大容量プランの獲得など、その時々に携帯大手が求める施策に応じてショップを評価する点数が加算され、ショップの総合ランクが決まる。ランク分けは5段階前後となっており、一番上のランクとなったショップは、総販売数に応じて手数料がより多く傾斜配分される。逆に最低ランクのショップは、いくら販売したところで手数料がほとんど入らない。総務省はこうした傾斜配分の評価指標に対し、「成績不良の場合には大半の手数料停止や強制閉店が行われる場合がある」と問題視する。

 ショップの強制閉店問題を巡っては、そもそも店舗数が過剰になりつつあることが背景として横たわる。現在、「ドコモショップ」や「auショップ」といった携帯大手のブランドを冠したショップは全国に約8000店舗。携帯電話の爆発的な普及に伴って増えた。しかしここ数年は市場の成熟化や19年の改正電気通信事業法の施行による端末販売の減少に伴って、ショップ数が緩やかに減っている。

 携帯大手3社はここに来て、「ahamo」や「povo」、「LINEMO」といったオンライン専用の格安プランを立て続けに開始した。「オンライン専用プランの投入に伴って、携帯大手はショップ数を減らそうとしているのではないか。能力が低いショップを強制閉店させることで、値下げに伴う減収分をカバーしてコスト削減したいのでは?」といった疑念がショップを運営する販売代理店から漏れる。