「努力を怠る携帯ショップがいまだに残り続けていることが問題。総務省の議論では携帯大手が一方的に責められているが、努力もせずに不満ばかり言っているショップにスポットを当てすぎではないか」――。
総務省や公正取引委員会が問題視する携帯ショップの評価制度を巡っては、一部の販売代理店からこのような意見が出る。携帯大手が定める高い営業目標も、優秀なショップに言わせれば「上等だ。スタッフの腕の見せどころ」となり、不適切な販売を引き起こしているとすれば「楽をしたいショップが姑息(こそく)なことをした結果」と映る。責任の一端は販売代理店にもあり、業界を挙げた改善の取り組みが求められる。
直前に方針転換したドコモ
今後の最大の焦点は、携帯大手が携帯ショップの評価制度の見直しにどこまで踏み込むのかだ。利用者のニーズを無視して上位プランの押し付けを誘うような評価制度は即刻見直すべきだろう。他方、評価制度を甘くし、努力を怠る携帯ショップを生かし続けることも利用者にとって歓迎すべきことではない。利用者のニーズを的確に吸い上げ、携帯ショップが率先して販売力向上に取り組むような評価制度が求められる。
総務省は2021年5月28日開催の有識者会議で公表した論点整理案で、「携帯大手の評価基準等が適正かつ合理的でなく法令違反を助長し得るような形で設定されている場合は、業務改善命令の対象となり得るということを明確化すべき」とした。
さらに総務省は適正かつ合理的でなく法令違反を助長する蓋然性が高いものの1つとして、高額なプランの獲得率や獲得の有無で評価が大きく変動するような指標を例示した。
携帯大手の評価制度は、大容量プランだけでなく、MNP(モバイル番号ポータビリティー)転入の獲得も重視される傾向にある。関係者によると、携帯大手は総務省有識者会議の非公開ヒアリングでこれらの問題について問われ、大容量プランやMNP転入獲得による販売手数料は「(全体の)数%の影響しかない」と反論したという。
MNP転入や大容量プランを重視した評価制度を運用していると指摘されるソフトバンクは、販売現場の負荷を考慮した結果と説明する。既存顧客の機種変更よりMNP転入のほうが説明が多くなり、大容量プランもサービスが複雑で時間も工数もかかるという。「(これらに)多少の傾斜は付けている。だが(これらの獲得を)頑張らなかったから(携帯ショップが)潰れるのかといえばウエートはそれほど高くない。クルー(スタッフ)の業務負荷と経済合理性を踏まえた評価になる」と同社営業戦略本部の井上孝昭副本部長は反論する。
一方、NTTドコモは2021年2月下旬に開いた販売代理店向けの説明会でMNP転入と大容量プランの獲得率に重きを置く方針を示していたが、その後、撤回した。「説明会の後、販売代理店とコミュニケーションした結果、無理販(強引な販売)につながり、リスクのほうが高いと判断して取りやめた」(営業本部販売部代理店担当の川瀬裕吾担当部長)。総務省の議論とちょうど重なるが、この影響ではないという。関係者によると、ドコモはARPU(契約当たり月間平均収入)向上を重視する目標自体は変えていないが、大容量プランの獲得が販売代理店の手数料収入に直接影響しないような体系に切り替えたという。